新劇の劇団などが加盟する日本劇団協議会が発行する機関誌「join」最新号で、演劇記者、演劇評論家、大学教授など81人にアンケートした「私が選ぶベストワン2017」の結果が掲載されている。

 アンケートは、17年に国内で上演された舞台を対象に、それぞれが「ベストワン」と思う「作品」「男優」「女優」「演出家」「スタッフ」「団体」「戯曲」などを記入していく。複数の選考委員による合議の末に選ばれる「演劇賞」と異なり、アンケートに答えた個々人の選考基準が直接反映しているのが面白い。

 「女優」では最多の9票が那須佐代子、8票で大竹しのぶ、6票で若村麻由美、3票で宮沢りえと続いている。那須佐代子というと、一般的な知名度は低いかもしれないが、青年座出身の実力派女優。「ザ・ビューティ・クイーン・オブ・リーナン」で母親役の鷲尾真知子との壮絶な母娘バトルが高く評価された。

那須佐代子(2007年11月11日撮影)
那須佐代子(2007年11月11日撮影)

 「男優」は最多が6票の温水洋一、5票が文学座の佐川和正、4票が佐々木蔵之介、青年座の横堀悦夫。温水は最近、ドラマでの露出が減っているが、「管理人」では老いたホームレスの男のこざかしさが際立って、紀伊国屋演劇賞でも個人賞を受賞している。

紀伊国屋演劇賞贈呈式であいさつする温水洋一(2018年1月30日撮影)
紀伊国屋演劇賞贈呈式であいさつする温水洋一(2018年1月30日撮影)

 「作品」は報道現場への政治的な圧力を描いた、永井愛作「ザ・空気」が5票でトップ。次いで、子役が主人公のミュージカル「ビリー・エリオット」、野村萬斎が演出した「子午線の祀り」が4票だった。

 「戯曲」は岩松了「薄い桃色のかたまり」、山本卓卓「その夜と友達」「ザ・空気」が5票で並び、横山拓也「粛々と運針」、古川健「斜交」が4票で続いた。岩松は俳優としても活躍するベテランで、私が選考委員を務めた「鶴屋南北戯曲賞」でも「薄い桃色」で受賞している。山本卓卓は30歳、横山拓也は41歳、古川健は39歳と若手で、今後の活躍に期待がかかる。

 ちなみに私は「女優」で大竹、「男優」では「肝っ玉おっ母と子どもたち」で28年ぶりに女性役に挑んだ仲代達矢、「作品」は野田秀樹作「足跡姫」、「戯曲」では岩松の「薄い桃色」を選んだ。仲代の「肝っ玉」の東京公演は今年3月だったが、私は昨年10月に石川・能登演劇堂で一足早く見ており、圧倒的な存在感を放った演技に「ベストワン」に推したが、得票は私の1票のみ。「足跡姫」は私を含めて3票だった。

「肝っ玉おっ母と子供たち」公演への意欲を語る仲代達矢(2016年8月25日撮影)
「肝っ玉おっ母と子供たち」公演への意欲を語る仲代達矢(2016年8月25日撮影)

 団体では文学座と、カナダ演劇を連続上演した名取事務所が7票で最多だった。文学座は創立80周年の大手劇団だが、名取事務所は小さな舞台制作会社。昨年の演劇界を回顧したある新聞の記事中で「極小事務所」と書かれたが、怒ることもなく、かえって、それを誇りにしている。演劇界では極小といえども、大手興行会社に負けない、確かな成果を挙げることができる。【林尚之】