2016年に亡くなった演出家蜷川幸雄さんのレガシーともいえる「さいたまゴールド・シアター」「さいたまネクスト・シアター」の解散が発表された。

蜷川さんは05年にさいたま芸術劇場の芸術監督に就任した直後、「演劇経験がないけれど、人生経験を重ねた高齢者たちによるプロの劇団を作り、世界に打って出る」という構想を発表し、翌06年に55歳以上の高齢者による「ゴールド・シアター」を結成した。当初20人程度の募集の予定だったが、全国から1266人の応募があり、結局、オーディションに合格した48人でスタートした。

07年に第1回公演が行われたが、平均年齢67歳、最高が81歳とあって、せりふ覚えに苦労し、本番でも蜷川さんをはじめとしたスタッフが台本を片手にプロンプターを務めた。しかし、蜷川さんの構想通り、人生経験に裏打ちされたせりふの重みが、演技のつたなさを打ち消し、これまでにない舞台を見せてくれた。

14年のパリ公演をはじめ、香港、ルーマニアでも海外公演を行うなど、世界的な劇団になったけれど、結成から15年たち、劇団員の平均年齢も81歳を超えた。メンバーも34人に減った上に、病気などで活動に参加できない人も増えた。今年2月に公演を予定していたが、コロナ禍で中止となったこともあって、劇団としての活動継続は困難との判断から解散を決めたという。

ネクスト・シアターは「次代を担う若手俳優の育成」を目的に09年に結成された。1225人の応募から合格した44人でスタートし、10年に「美しきものの伝説」で読売演劇大賞優秀作品賞を受賞するなど、早くから注目されてきた。

しかし、蜷川さんが亡くなった後、ほかの劇団や芸能事務所に入るなど退団者が増えていき、今は14人となり、退団者、在団者ともにさまざまな舞台や映像で活躍するようになった。そのため、「当初の目的は達成できた」と、現在上演中の「雨花のけもの」を最後に劇団としての卒業を決めたという。

ゴールド・シアターのラスト公演は12月に太田省吾さんの名作の沈黙劇「水の駅」。1981年の初演以来、高く評価されている作品で、18年に亡くなった大杉漣さんも出演していた。沈黙劇だから一言もせりふはないけれど、非常に遅いテンポで演じることを求められ、身体的にはより大きな負荷がかかるだろう。

そのハードルに平均年齢81歳の劇団員たちがどう立ち向かうのか。ハラハラしながら見ていて、最後はいつも感動をもたらしてくれたゴールド・シアターの最後の舞台が今から待ち遠しい。【林尚之】