深夜、電動自転車で新宿・小滝橋通りを走行していたところ、劇的な空腹に見舞われたため、普段、それほどラーメンを食べるわけでないのだが、2月末にオープンしたばかりという、あの有名チェーン「一蘭」の西新宿店に衝動的に入ってしまった。

「天然とんこつラーメン店」で知られる一蘭に入るのは恐らく4~5年ぶりとかなり久しぶりだが、この西新宿店、看板に大きく「100%とんこつ不使用」とか「No Pork」などと書かれていたから、一般的な一蘭とは違った。

何はともあれ入店。この西新宿店に関しては、外国人観光客が多数日本を訪れる中、諸事情で豚を口にすることができないが一蘭のラーメンを食べたい…という声にこたえて作り上げた、「豚を一切使わない」が、「天然とんこつラーメン」に遜色ない味を出すことに成功したラーメンを提供しているようだ。

普段、「ラーメンにかんするうんちくをやたら語りたがる男」的なタイプでは一切ない筆者は、とりあえず空腹を解消できれば良かったので、メインのラーメンと、牛肉の別皿、小ごはん(※いずれも正式なメニュー名忘却)を注文した。

それはさておき、「100%とんこつ不使用」ラーメンよりも驚いたことがあった。ほかの一蘭でもすべてそうなのかは久々の利用だから分からないし、一部ネット上で数年前から話題になっていることくらいまでしかきちんと調べきれていないのだが、入店した際、店員から次々に「幸せ~!」というコールが起きたのである。

最初「いらっしゃいませ~!」かと思ったが、後に入ってきた別の客に対しても「幸せ~!」と言っていたから、間違いない。

一蘭独特の、隣席との仕切りがあるカウンターに座ると、そこに「幸せ~!」についての説明書きが張られており、すぐ疑問は氷解した。

そこでは「従業員一同『幸せ』にちなんだ挨拶でお出迎えやお見送りをしています」と書かれ、それは「言霊(ことだま)」であると説明。店員は「いらっしゃいませ~」の代わりに「幸せ~!」と挨拶し、「ありがとうございました」とか「お気をつけて」の代わりに「幸せを~!」と言うという。

あまりにも斬新な挨拶の“おもてなし”に面食らっていると、「100%とんこつ不使用」のラーメンがきた。豚チャーシューではなく、牛のばら肉のようなものが乗せられていたが、外見は一般的な一蘭のラーメンとそれほど違いを感じない。

どれどれ…とスープを飲んでみると、あれ? ほとんど「天然とんこつ」と変わらないコクとうまみで、あの一蘭の味がしっかり出ている印象。「赤い秘伝のタレ」をまぜて辛味も加える。麺によくからみ、なじむ「100%とんこつ不使用」スープのラーメンはかなりいけた。

深夜1時ごろ、「幸せ~!」コールの中、「一蘭」西新宿店の「100%とんこつ不使用」ラーメンを一気に食しある種の“ゾーン”に突入
深夜1時ごろ、「幸せ~!」コールの中、「一蘭」西新宿店の「100%とんこつ不使用」ラーメンを一気に食しある種の“ゾーン”に突入

あとは一気に爆食して満足感に浸り、夜も遅いのでさっさと店を出たが、説明書きの通り、店員から次々「幸せを~!」というコールで送り出されたから、思わずニヤリとしてしまった。

「株式会社一蘭」(福岡市)のホームページを見てみると、吉冨学社長が「『幸せに満ち溢れた高い人間性を持つ人を育てる会社』を作ることが経営者としての使命」と宣言していた。

折しも3月20日、国連の関連団体が今年の「世界幸福度ランキング」を発表し、日本は156の国・地域の中で58位と、過去最低だった。中でも「寛容さ」という項目で92位とかなり低かった。

かなりひねくれ者の筆者は、「幸せ」だとか「幸福」などというワードを聞くとすぐ、「幸せがあれば、結局不幸もくる」などと考えてしまい、何の影響か自身でも分からないが、幼少期から、直後に想定外の不運に見舞われるかもしれない…という異様なネガティブ思考から「僕、幸せになりたい」などという類の言葉を今もって1度も言ったことがない。

とはいえ、他人を批判して論破したり、ミスをことさら責めて自分だけ気持ち良くなるのは好きでない。多少のことは許し、互いにほめあったり、幸せを願いあう「寛容さ」を高めたほうが、トータルでみて建設的だし、世の中の「好循環」が生まれる側面もあるかもしれない。

というわけで明日会社に行った際、実験的に、記者が出社してくるたびに「幸せ~!」と満面の笑みで全員を出迎え、会社を出る際に「幸せを~!」と送り出してみることを一瞬考えたが、客観的にみて、筆者がそれをやると逆に「大丈夫ですか?」と激しく心配される可能性があるため、やめておくことにする。【文化社会部・Hデスク】