中村梅丸(19)の存在感が光っている。今年、重要な役どころへの抜てきが続き、立役(男性の役)でも女形でも、目を引く活躍だ。一般家庭から、あこがれの歌舞伎の世界に入って約12年。「今でも夢のよう」と謙虚さを崩さない。素顔は、音楽が好きで、笑顔がすてきな大学生。歌舞伎への興味をぐっと駆り立ててくれる。

 取材は11月の歌舞伎座公演が終わりにさしかかったころ。大人っぽいスーツ姿だ。ぱっちりとした二重の目、長いまつげ。優しい表情に、芯の強さを感じさせる。

 「チャームポイント? ないです、ないです。お顔(化粧をすること)はなかなか上手にならないんです。うまくいった! と思うことがないんです」

 いやいやいや、立役でも女形でも、登場すると舞台をぱっと明るくしてくれる。きらきらしたたたずまいは、歌舞伎の世界に触れたころから変わらないかもしれない。2歳の時、歌舞伎好きの母と一緒に、初めて歌舞伎座を訪れた。

 「すごく衝撃的だったことを覚えています。ちょうど(テレビの)収録の日だったようなんです。僕が『あの人は誰?』なんてしゃべるから、劇場の人に大間(ロビー)に出されて、寝っ転がって『嫌だ嫌だ!』と泣いたそうです。結局、音が外に聞こえない部屋に入れてもらって見ました。とにかく歌舞伎の世界観が好きです。ワンダーランドです」

 日本舞踊を習うようになったことがきっかけで、中村梅玉の部屋子になった。とはいえ、最初から部屋子になったのではなく、師匠の手伝いから始まった。小学1年の終わりころだった。舞台の向こう側はまさに夢の世界だった。

 「トイレが近い子でした(笑い)。というのは、楽屋から廊下に出ると、いつも見ていた役者さんたちがいらっしゃるのが見られるからです。うれしくて楽しくて、すぐ『トイレに行ってまいります』って」。

 本格的な稽古が始まっても、すべてを楽しんで続けてきた。実は、課す側は「○○ができなかったらもう預からない」というハードルを設けていたそうだ。

 「ははは。後からそういうトラップがあったんだって知りました。僕にとっては楽屋に来るだけでも、夢の世界なので、うれしい気持ちばかり。次はこれをお稽古できるんだ、って。泣いちゃうこと? なかったですね」

 師匠の梅玉からいつも言われている言葉は「舞台でも楽屋でも謙虚に」だ。

 「普段が舞台に出るからだと思います。基本的なことを大事にしている一門ですから、守っていきたいです」

 今は立役と女形の両方を務める。11月も「元禄忠臣蔵」では若侍の伴得介、「河内山」では、お殿様にほれられる腰元浪路を演じた。女形は梅玉の弟中村魁春から教わる。

 「立役、女形、どちらも勉強させていただきたいです。どのお役も付け焼き刃でできるものではとてもないので、普段の稽古をきちんとやることが大事だと思った1年でした」

 まじめで謙虚な話しぶりを聞くと「普段が出る」というのは本当だと感じる。見る側だった時の気持ちを大事に、舞台稽古は3階席から見ることも忘れない。

 来年1月は、若手による「新春浅草歌舞伎」からスタートだ。「三人吉三巴白浪」で、純粋で悲劇的な最期を遂げるおとせを演じる。「心して務めたい」と、ここでも謙虚に語った。

 この笑顔を前に聞かずにはいられないではないか。「モテますよね?」。「モテません」と即答し、照れた笑顔がまた良かった。【小林千穂】

 ◆中村梅丸(なかむら・うめまる)1996年(平8)9月12日、東京生まれ、05年1月、国立劇場「御ひいき勧進帳」の富樫の小姓で初舞台。翌年、中村梅丸を名乗る。屋号は高砂屋。今年10月、国立劇場「伊勢音頭恋寝刃」ではお岸を演じ、同月の研修発表会ではお紺役に挑んだ。大学では文学部に籍を置く。音楽は幅広いジャンルを聴き、福山雅治が好き。来年はお茶、習字の稽古も始める予定。行ってみたい所を聞くと「温泉行きたいですねえ」。