中村萬太郎(26)の登場です。「明治座 四月花形歌舞伎」(4月2~26日)では「女殺油地獄」「浮かれ心中」の2演目に出演、いずれも初役を務めます。「休みなんかいらないです」と言うほど、舞台に出るのが好き。いつかやりたい役のために、日々精進を重ねています。

 3年前に取材した時、「大きな役をやりたいと思うことも大事ですが、日々の舞台をきちんとやることの方が大事」ときっぱり語っていた。3年たった今も、気持ちはまったく変わっていない。

 「あまり先のことを見て、足元がおろそかになってはいけないと思っています。父(中村時蔵)からも、小さなことの積み重ね、といつも言われています。どんな時でも常に同じように、今できる全力で務めたいんです。この気持ちはずっと変わっていません」

 「明治座 四月花形歌舞伎」では2つの初役に挑む。庶民の暮らしの中で起こった悲惨な事件を描いた「女殺油地獄」では、異質の存在とも言える武士、小栗弥八を演じる。

 「物語の大筋にからむ役ではないですが、町人たちが思わず頭を下げるような位取りの大きさが一瞬で出せるかどうか。僕は風格はないですが、自分にない役をやるのもお芝居のだいごみ。普段頼りないのに、お芝居になるとしっかり見えると言われたいです」

 「浮かれ心中」は清六役。物語の最後にキーマンとして浮かび上がる。「女殺-」と違い何度も上演されている演目ではないだけに「僕は僕なりの清六を作っていかなければ。稽古までにどれだけ自分の中で練っていけるかどうかです。稽古で『違う』って否定されるかもしれないですから、緊張します」と話す。

 とにかく芝居が好き。いつも舞台に出ていたい。

 「去年は11カ月出させていただきました。今年はどうでしょう…。休みの月があると悲しいです。休みなんかいらないです。一瞬出るだけでも、出ると出ないじゃ得るものが全然違いますから。休みにはお芝居を見たりしますが、見に行っても出たくなるだけです」

 いつかやってみたい役をと聞くと「夢は語りたくないんですよね、不言実行でいたいから」と言いつつ、ほんの少し明かしてくれた。

 「『白浪五人男』の南郷力丸、『髪結新三』の勝奴、『仮名手本忠臣蔵』の千崎弥五郎をやってみたいですね。萬太郎じゃなきゃと言ってもらえるような役者になりたいと思っています」

 兄中村梅枝のところに昨年生まれた長男大晴(ひろはる)の話題になると、真面目な顔が一転、ほころんだ。

 「かわいいですねえ。独身でぷらぷらしているとけっこう頼られるんです。僕ですか? いずれは、とは思いますが、自分のこともはっきりしていないのでまだまだです」

 芝居のことだけに集中する日々はしばらく続きそうだ。【小林千穂】

 ◆中村萬太郎(なかむら・まんたろう)1989年(平元)5月12日生まれ。屋号は萬屋。中村時蔵の次男、兄は中村梅枝。初舞台は94年歌舞伎座「道行旅路の嫁入」。6月30日から全国巡業で歌舞伎十八番の1つ「鳴神」に出演するほか、「歌舞伎の見方」で歌舞伎初心者向けの解説も担当する。最近はまっているのは米ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」。血液型B。