◆アメリカン・スナイパー(米)

 2時間12分の本編を見終わった後、感じたことを誰かに伝えたくて、たまらなくなった。

 イラク戦争に4回出征し、米軍史上最多160人を射殺した兵士の自伝を映画化した作品だ。プロデューサーも務めるブラッドリー・クーパーが、伝説と呼ばれた狙撃手クリス・カイルの、苦悩する姿を痛々しいまでに演じる。神懸かり的な技術に裏打ちされた戦地での強さがあり、家族が待つ平和な母国に戻っても、狂気に満ちた戦地と、祖国を守る使命感を忘れられずにいる姿だ。

 「祖国を守りたい」「イラクの反政府武装勢力に殺された仲間の復讐(ふくしゅう)を遂げるんだ」という思いにまい進するあまり、帰国しても日常を受け入れられない。米国では、そうした帰還兵や退役軍人の心的外傷後ストレス障害(PTSD)が社会問題化しているという。そこに、この作品はメスを入れている。

 戦後70年。その間、戦争はしていない日本人に、この映画の真意が伝わるのだろうか…と一瞬だけ思った。ただ、精神的に大きく傷ついた人間の揺れる心は、東日本大震災、福島第1原発事故で被災した人々の苦悩にも通じるものがあると思い直した。また、戦争において正義とは何なのかということも、あらためて考えさせられた。

 安倍晋三首相が憲法9条改正に意欲を示し、自衛隊任務の拡大を視野に入れている今、日本人も考えなければいけないことを、この映画は提示している。【村上幸将】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)