1890年(明23)に和歌山県沖で難破した、トルコの訪日使節団を乗せた軍艦の乗組員69人の命を地元住民が救ったことが、1985年(昭60)イラクの無差別攻撃にさらされる寸前の、イランの首都テヘランにいた日本人215人が、トルコの救援機によって脱出できたことにつながった。その史実を元に、両国の友情を描いたのが今作だ。

 前半は、内野聖陽演じる医師をはじめとした地元民が、難破した軍艦エルトゥールル号の乗組員を、わが身を顧みずに救う物語が描かれる。後半は、忽那汐里演じる日本人学校教師らのテヘラン脱出劇を描く。全長30メートルの軍艦の甲板セットなどを造り、特撮とCGを絡めたシーンもある前半部は確かに迫力はあったが、映画全体を見渡すと尺がやや長く感じた。一方で、物語のペースが1段階上がったかのようにスリリングな、後半のテヘラン脱出編は、もう少し見たかった。

 一見、きれいごとにも見える両国の友情と真心は、史料に残っており、その精神を現代に伝える意義はある。トルコ人俳優ケナン・エジェの情感あふれる演技を含め、邦画らしからぬ映像を作り上げた、田中光敏監督の新たな代表作と言っても過言ではないだろう。【村上幸将】

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