ダークサイドの匂いをさせながら、昨年「ジャスティスの誕生」でバットマンを演じたベン・アフレックが、今作でも心に闇を抱えたヒーローを演じている。

 コミック世界から一転、表の顔こそリアルで地味な田舎の会計コンサルタントだが、裏の顔は世界の危険人物の裏帳簿を仕切っている。数字に関する感覚は天才的で、おまけに格闘術や狙撃の腕も一流だ。

 箇条書きにすれば、バットマンを上回る荒唐無稽な設定だが、傑作テレビシリーズ「ジ・アメリカンズ」を総指揮したギャビン・オコナー監督は、幼少期や青年期のエピソードを随所に織り込み、パズルのように緻密に人物像を作りあげている。複雑な要素が1人の男に像を結び、さもありなんと納得だ。

 アフレックもボディービルダーのようなバットマンから、短期間でシャープな体に変身した。この主人公特有の話術のぎこちなさや、格闘術の滑らかな動きもものにしている。角張った米国的美顔は一見底が浅く見えるが、とんでもない。

 「セッション」のJ・K・シモンズや個性派ジョン・リスゴーといった濃いキャラクターの配置も絶妙だ。隙がない。【相原斎】

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