なぜ戦場で武器を持たなかったのか? 第2次世界大戦時下の沖縄戦で「武器を持たない衛生兵」として、米国史上初となる名誉勲章を受けた兵士デズモンド・ドスの実話をもとにした物語。一晩に75人もの日米の負傷兵を救った事実よりも、自らの信念で武器を持たない兵士が戦場に実在したことに驚いた。

 米バージニア州の田舎町で育ったアンドリュー・ガーフィールド演じるデズモンドは戦争が激化する中、衛生兵として陸軍へ志願する。狙撃訓練が始まったとき「生涯、武器には触らない」の主張は部隊を揺るがす。上官と同僚からの嫌がらせを受け、さげすまれても信念を曲げない。

 派遣された先は沖縄・浦添城跡の標高約120メートルの高地。米軍は「ハクソー(弓のこぎり)」、「リッジ(崖)」、日本軍は「前田高地」と呼んだ死闘の地だった。米軍の火炎砲と小銃の息をつかせない集中攻撃、死体を盾にして戦う兵士…。残忍な描写はすさまじいが、戦場の現実を伝えている。メル・ギブソンが10年ぶりに監督を務めた今作は、アカデミー賞で編集賞と録音賞の2部門を受賞した。米国、万歳! の映画ではない。【松浦隆司】

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