エドガー・ライト監督はクセのある人だ。3年前の「ワールズ・エンド」は、酔っぱらい集団がエイリアンを撃退する物語だった。言ってしまえばB級的な題材なのだが、英国パブ文化へのこだわりが徹底していて、見終わってみれば良質娯楽作品の印象が残った。

 今作もiPodで音楽を聞きながら凶悪犯を逃がす天才ドライバーが主人公で、ギアチェンジやヘアピンターンが音楽にシンクロする「あり得ない」展開でスタートする。一方で、最初に登場するスバルWRXは、見栄えより性能や持ち味でオープニングのチェイスに合わせて選んだそうだ。ハンドルさばきがリアルに映ったのもそのせいかもしれない。こだわり抜いた選車と選曲だからこそ車版「ラ・ラ・ランド」のような心地よさが生まれる。

 主演アンセル・エルゴートの陰りは内気な主人公にぴったり。ケヴィン・スペイシーはボスの貫禄、ジェイミー・フォックスはマイク・タイソンと見まがう凶悪ぶりだ。登場するキャラクターは色分けがはっきりしていて分かりやすい。

 すべては音楽とアクションの融合を気持ちよく見せるためなのだろう。ライト監督は心得ている。【相原斎】

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