ひと昔前なら、「女スパイ」で最初に頭に浮かぶのは「007」に登場するロシア美女だった。今はもう少し複雑で、米ドラマ「ホームランド」でクレア・デインズが演じている作戦担当官をイメージする。

 ときに生身の弱さを見せながら、心理戦にたけ、味方も欺いて情報戦を生き残る。冷戦時代に比べ、利害関係が入り組んだ現代はきれいごとでは済まされない。

 美女よりは個性派。心理劇が得意な女優こそリアルなスパイ像にしっくりくる。デインズ以上にはまるのが今作のノオミ・ラパスではないかと思う。

 演じるのはCIA尋問官。高度なスキルを持ちながら、1度の失敗がトラウマとなり、一線から引いている。そんな彼女に過激派メンバー尋問の仕事が回ってくる。内通者の陰謀が絡み、彼女はいつの間にかテロ容疑者に仕立て上げられる。

 はめられたかに見えたラパスの演技にこちらがだまされる。ピンチに顔は引きつっても、瞳は目のほぼ中央に安定。CIA尋問官のタフさはさもありなんと思わせる。共演オーランド・ブルームも異様に謎めいている。二転三転、練れた脚本が先を読ませない。【相原斎】

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