木登り動画を配信中に転落し、左鎖骨や左肋骨(ろっこつ)9カ所を骨折した間寛平さん(67)が、今月26日に約1カ月ぶりに仕事復帰した。肺からの出血もあった重傷だった。当初は復帰当日に取材対応とみられたが、なかなか決まらない。すると、復帰前日に会見を開くことになった。そのワケは…。

 寛平さんの復帰当日に、出身の吉本新喜劇で、酒井藍ちゃん(30)が初の女性座長就任を発表することから、ネタかぶりを避けての“前倒し”復帰となったわけだ。結果として、寛平さんの仕事復帰は、民放テレビ生出演だったため、当該局以外も取材に来やすくなったのだが、大けがから復帰の寛平さんが、わざわざ仕事もないのに、会見のためだけに、吉本本社へやって来たのだ。

 しかも、寛平さんは「復帰でもないのに、集まってくれるかな?」と不安を漏らしたという。そう。おそらく、日本の芸能界きっての「いい人」だと思う。なにせ昔、足しげく通う飲食店があって、理由を聞けばおいしいからではない。「いつ行っても客がおらん。俺が行かんとつぶれるんちゃうか思うて」と言っていた。そんな人だ。

 復帰会見でも、「本気」のキーワードで「誰がモンキーや」と返す鉄板ネタに備えて、第一声で「本気で落ちたんですか? ネタですか?」と投げてみたら、見事にボケてくれた。

 鎖骨が9本も折れ、肺からも出血していた重傷で、いまだ骨がついておらず、つねに痛みがある状態。にもかかわらず、途中、ある記者からは「(話題になって)おいしいと思ってます?」との質問まで出た。もちろん、これにも笑顔で返した。大ベテランなのに、気さくで、飾りっ気ひとつない性格は変わらない。

 浮沈激しい芸能界を生き抜く術のひとつに、人望、人徳があるが、まさにそれを体現している人だ。その寛平さんの復帰会見を前倒しにするきっかけとなった新座長の藍ちゃんも、実は誰からも愛されるいい子。

 素直で、気取りはまったくない。取材時でも、相手に「人と人としての対応」を心がける誠実な性格。何より、話していて、あったかくなる。だから、座長をねらっていた先輩も、もしくは、時代の流れで座長に就けなかった末成由美、未知やすえ、浅香あき恵ら、女性陣の大先輩も、藍ちゃんの座長就任を心から祝福している。

 その藍ちゃんは、99年の座長固定制後、最年少で座長に就くが、それ以前、最年少とされていたのは、20代半ばだった寛平さんだ。2人の共通点は「あったかさ」。寛平さんと藍ちゃんを2日続けて取材することになり、新喜劇58年の歴史、伝統を妙な形で実感した。【村上久美子】

吉本新喜劇初の座長就任が決まった酒井藍(2017年5月26日撮影)
吉本新喜劇初の座長就任が決まった酒井藍(2017年5月26日撮影)