「2人もそう(いう関係に)なれていたのか」

 NMB48の絶対エース山本彩(24)が、10日にグループの活動を終了した矢倉楓子(21)と、白間美瑠(20)のライバル関係を思って、ツイッターにつぶやいた言葉だ。

 山本と渡辺美優紀(OG)の「さやみる(きー)」、矢倉、白間の「ふぅみる」などと続いたグループの歴史、アイドルとしての戦いが、この「一言」に凝縮されていた。

 どこの世界でもそうだが、10代少女が争うアイドルの世界でも、前進にライバルの存在は不可欠。10年秋に大阪を拠点に誕生したNMB48。「大阪にアイドルは根づかない」定説を覆したのは、その山本であり、山本の最大のライバル、みるきーこと、渡辺のダブルエースだった。

 山本は、渡辺の卒業時に「いつも比べられ、それが最初はすごくいやで、見えないすごく大きな見えない壁が、2人の間にあった」と漏らしている。結成後すぐ、山本はキャプテンに就いたが、デビューシングル「絶滅黒髪少女」のセンターは渡辺だった。

 優等生の山本に対し、奔放な自由人の渡辺。そんな第一印象だった。2人は、水と油のように反発しあい、メンバーはもちろん、スタッフでさえ、2人を近づけないように配慮した。

 渡辺も、グループに在籍しながら、ソロデビューの夢をかなえつつあった山本に、猛烈な対抗心、嫉妬心を燃やしていた。

 ただ、渡辺の卒業にあたり、互いに相手の存在の大きさに気づいた。水と油だからこそ、自身の個性を磨くことに専念できた。いや、せざるを得なかった。

 「さやみるきーでいれば、無敵でいられた」

 結果、最後の最後、2人はこう口をそろえた。AKB48グループきってのキレを放つダンサー山本、柔らかく滑らかなダンサー渡辺。生年も血液型も同じだが、性格、ダンサーとしてのタイプは真逆。実際、AKB48グループ、どこを見渡しても劣らない最強2トップだった。

 「(相手が)いなければ、ここまでやってこられなかったのは間違いない」

 友人ではなくても、戦友だった。言葉では表現しきれない微妙なバランスの上に成り立つ、少女たちのライバル心。「さやみるきー」が終わりを告げ、14年「らしくない」でダブルセンターを務め、次世代エース候補として台頭してきた白間、矢倉による「ふぅみる」に期待が集まった。

 白間、矢倉の関係も「ふぅみる」と呼ばれるようになって、変わっていった。矢倉の卒業コンサートで、白間が手紙を読んだ。

 「互いにはっきり言わなくても、意識をする空気はあった。同じチームで、元気がないときがあって、私は気付いていたのに、声をかけられなかった。ふぅちゃん、大好きなのに、バカ野郎で、ごめんね」

 涙ながらに、「さやみるきー」と同じような「壁」に苦しんだと吐露し、矢倉も白間に抱きついて号泣。最後にやっと、素直になれた2人を見て、山本も渡辺との関係を思い出したのだろう。そういえば、つねに冷静なキャプテン、あの山本が、渡辺の卒業コンサートでデュエットをしようとして、泣きながら崩れ落ちたことがあった。しゃがみ込んだ山本をリードして、渡辺が歌った。

 そして卒業公演は、渡辺が号泣。すると、山本は笑顔で引っ張った。山本が泣けば渡辺は笑う、渡辺が泣けば山本は笑う。壮絶な戦いを重ねてきたライバルならではの不思議さ。キャプテンが白間、矢倉の後輩に向けた言葉には、いろんな意味、思い、軌跡が詰まっていた。【村上久美子】