男勝りでクール、少しばかりの破天荒さも持ち合わせる。そんな真木よう子(36)のイメージは、あくまで彼女の一面でしかないのかもしれない。7月期の日本テレビ系ドラマ「ボイス 110緊急指令室」(土曜午後10時)で、母性的な強さを秘める女性警察官の役に出会い、「自分が分からなくなった」と包み隠さず語る。女優と呼ばれることを嫌う役者の顔、長女について屈託のない笑顔で話す母の顔。真木よう子は何面体の役者なのだろうか。

★今も手探り

見慣れない制服姿が少しだけ、初々しい。「SP」「MOZU」などの私服刑事役の印象が強い真木だが、今回は超人的な聴力を武器に、緊急指令室に届いた被害者や通報者の声から事件を判別する警察官役だ。

「今までは男だらけの公安とかに入ってもできないことはないような、武力的にも人間的にも男っぽい役が多かった。今回の橘ひかりはすごく心の優しい女性で、目の前の被害者を救うこと、尊い命を亡くさないことが一番大切、と分かっている。新しい強い女性像、今まで演じたことがない役なので、今も手探り状態で演じています」

手探り、という少し弱気な言葉が出た。

「いざカメラの前に立って急にスイッチが切り替わるような器用なタイプではない。意識的に、演じる役をずっと中にいさせるようにはします。考え方が似ていたり、自分もこういう行動するな、という役だったら、そこまで考え抜いたりしないかもしれないけど。(ひかりの設定の)近親者を亡くしたことが私はないので、そういうところから考えていかなければならないですし」

自らのイメージについては、冷静に俯瞰(ふかん)している。

「パブリックイメージはそうだと思います。凜(りん)としていてクールで強い、自立している女性と思われていると思います。それはおそらく、ものすごく間違っているということでもないと思います。そういう役が来るということは。だけど、橘ひかりに出会って、ここまで自分が強くなれるのか、ここまで人に寄り添えるのかと考えたときに、ちょっとだけおびえたんですよね、自分に」

生まれた迷い。そして、それを隠そうとしない。

「本当の自分というのは、役者なんで実はちょっとよく分からないんですよ。いろんな役を行ったり来たりしているので。休みの日はボーッとしているだけだったりする(笑い)。どんな役が来ても引き出しが出せるように、無意識のうちに『自分はこうだ』と決めつけないでいるのかも」

イメージ通り“強い”時期もあったと回想する。

「自分はこうなんですって前はきちんと言えてたんですけど。なんか1周回って、自分のことよく分からないな、みたいな。ふふふ。あれ、おかしいな、橘ひかりのせいかな、と最近思ったりしてます」

★芝居ごっこ

真木は役者を意識した時期を明確に覚えている。

「小学校2年生ですね。ジブリの『魔女の宅急便』とか、アニメのセリフを全部覚えて、ひとりでお芝居ごっこするのが好きだった。その後、安達祐実さんが『家なき子』(94年)でブレークして。自分と同じくらいの世代の女の子がテレビや映画で活躍して、女優さんという仕事があるのを知って。『家なき子』も毎週見てセリフ覚えて、友達とごっこをやってました」

小中学生らしからぬ、強い信念が芽生えた。

「みんなが『将来何になりたいか分からない』と言ってる気持ちが逆に分からなかった。自信があったかと言われたら分からないんですけど、若いからあったんでしょうね、私にはこれしかない、みたいな」

★仲代達矢と口論

中学卒業後、演技の道を家族に相談。母は背中を押したが、父は反対した。

「でも、たぶんそれが普通なんじゃないですかね。娘が高校行かずお芝居の道へ行きたい、と言ったら『高校だけは卒業してくれ』と。それが父親として言うべきこと、願いですよね」

無名塾の門をたたくが、主宰の仲代達矢と行き違いから口論し、退塾。そんな武勇伝も、ひとつやふたつではない。

「基本的にウソをつけない性格。役者やってるんですけどね。目上の方であってもきちんと真実を伝えたい、という性格なんです」

それでも、役者で生きる、という強い信念は実を結んだ。真木にとって記憶に残る一作、はあったのか。

「よく聞かれるんですよね…。自分を変えるというほどの役はないように思います。ただ今でも、あの子の人生をもう生きられないんだ、ということが悲しかったりする役はあります」

その役とは。

「『さよなら渓谷』(13年)もそうですし…意外に思われるかもしれないですけど『BUDDHA2』(14年)のルリ王子。アニメで、声だけなんですけど。王子でありながら国民に示しがつかない状況となって母親を殺してしまう。ただずっと母親への愛情はある。その子たちは、たまによみがえってきますね。憧れてるのかな、その強さや、そこまでして生きるということに。そして孤独なんです。そうなりたいとかではないけど、なかなか消えてくれない。自分の中で濃い時間だった感じです」

★役と行き来

結婚、出産も経験した。役者人生には変化をもたらしたのか。

「全く変わらないと言ったらウソになるんですけど。自分の命とは違う命の責任はあるわけですから。ただ、娘がいるからどうこう、という仕事のやり方は絶対に違う、と思っている。やっぱり自分が好きな仕事であるから続けていて、その背中は見せ続けたい」

小学生の長女は役者の母を追っているのだろうか。

「いや全然全然(笑い)。たまに『ちょっとママのを見る?』とか言っても『いい』って」

表情から力が抜け、母の笑顔になった。長女が2世女優になる可能性は。

「今はなさそうですね。私が自分勝手に生きて母が許してくれたように、私も娘を尊重する母親でありたい。万が一『女優になりたい』と言い出したらやれば! と言うと思います」

役と母親を行き来する。リフレッシュ方法を聞くと意外な答えが返ってきた。

「やっぱりそれは、母親になることですね。外で仕事している時はどちらかというと父親、役者という感じですけど、家に帰ったら普通の母親。娘がおなかすいたと言ったらご飯作る。朝起きたら、お弁当作る」

母の笑顔、長女の話はとめどなく続いた。

「娘がゲームばっかりやっていて良くないなと思って、トルストイの本を買ったんです。寝かしつけの時、絵本だと『私は子供じゃない』とか言うんで、だったらトルストイあたり読ませてみようと思って。一瞬で寝ました(笑い)。うわ便利~、分からないものだと一瞬で寝るのか、と思って。本の題名は『人は何で生きるか』(笑い)」。

強い女性なのか、母性あふれる女性なのか。数十分の会話で、逆に本性が見えにくくなった。いろいろな素顔が揺れ動く。真木よう子とは何者なのだろう。

「女優じゃなくて、役者だと思います。女優って怖くないですか? あんま女優って言われるの好きじゃなくて。それ以外は普通の人間。ただ本当にお芝居をするのが好きだった子供が、今でもお仕事でやっている、自分はそういう感覚。役者、って感じです」

▼15年の共演以来、公私にわたって交友があり「ボイス-」でも共演するYOU(54)

真木は明るいし、人懐っこいし、すごくカジュアルで話しやすい人。仕事に対しては真面目で集中する。そこはすごいなあ、と思ってます。セリフも多くて、大変だと思いますが、頑張って乗り切って、おいしいご飯食べに行こうね。

◆真木よう子(まき・ようこ)

1982年(昭57)10月15日、千葉県生まれ。01年「DRUG」で映画デビュー。06年映画「ベロニカは死ぬことにした」で初主演。映画は「モテキ」「外事警察 その男に騙されるな」、ドラマは10年NHK大河「龍馬伝」など。13年映画「さよなら渓谷」で日刊スポーツ映画大賞主演女優賞ほか、受賞多数。運動歴は空手、陸上。160センチ。血液型A。

◆「ボイス 110緊急指令室」

13日スタート。韓国で17年に放送されたドラマのリメーク。主演の唐沢寿明演じる妻を殺された刑事の樋口彰吾が、真木演じる横浜・港東署の緊急指令室長橘ひかりとともに凶悪犯に立ち向かう。増田貴久、木村祐一らも出演。(2019年7月14日本紙掲載)