花組スター瀬戸かずやが、13年目にして新人公演以外での初主演作に臨んでいる。兵庫・宝塚バウホールで上演中の「アイラブアインシュタイン」。アンドロイドを生み出した天才科学者役。アンドロイドに「愛」を教えるストーリーだ。ロボットと人間の共生を描いたアニメ映画「ドラえもん」を参考に役作りしてきたという。25日まで。

 スラリとした立ち姿、肩幅を生かしたスーツの着崩しぶりから「花組の彼氏」と呼ばれる瀬戸。13年目で初めてバウ公演に主演。新人公演以来、6年ぶりのセンターに立っている。

 「やっときたか! という思いと、喜びで胸がいっぱいになりました」

 アンドロイドを生み出した科学者役。機械の「感情」をめぐり、愛について悩む物語だ。スピルバーグ監督の「A.I.」(01年公開)、社会のロボット化を表現した「ドラえもん のび太とブリキの迷宮」(93年公開)から、世界観を吸収した。

 「ドラえもんが一番しっくり(笑い)。人間が面倒くさいからって機械を作って、でも裏に葛藤があって。奥が深い。今回も後半は心理戦になっていく」

 作品に奥行きを持たせるべきキャリアがある。

 「プレッシャーに、すっごく弱いんですけど、今は、真ん中に立つ責任も感じつつも『受けてやろうじゃないか』って、すごく強く、前向きでいられる」

 転機は14年の「ノクターン」。新人学年だった5年後輩の柚香光が主演し、瀬戸は父役を好演した。

 「色気だだ漏れの変な父さん(笑い)。どうすれば受け止められるか悩んで。自分がこうだと思った物をお見せしたら皆さん受け入れてくれた。ゆっくりと、ひとつひとつ地を固めながら進んできて、よかった。自信につながった」

 昨年1月には当時専科の北翔海莉主演作に、今年2月は理事で専科の轟悠主演作にも出演。先輩から懐の広さを学んだ。

 「轟さんも、北翔さんも、娘役が胸に飛び込みたくなる包容力がある。自分の存在に誇りをもっている」

 今回、あらためて1年先輩のトップ明日海りおの重責を感じた。

 「もともと私、自分のことより人の面倒見て、最後に、あれ自分は? となるタイプ(笑い)。弟がいて、よく面倒見ていたので」

 6月には瀬戸が花組伝統のバーベキュー大会を主催した。大型バス2台をチャーター。幹事も務めた。

 「同じ思い出を共有するってすごく大事。山奥にみんなを放って(笑い)。それを見守る。楽しかった。野菜掘って、マス釣って」          

 花組バーベキューの締めは「焼きそば」が伝統。以前は専科へ移った華形ひかるが担当し、通称「焼きそば兄さん」と呼ばれる。今回は瀬戸が受け持った。

 「(前トップ)蘭寿(とむ)さん退団のときも、締めは焼きそばだったし、みんなに食べさせなきゃって。あの頃の上級生は一気にいなくなったから」   

 芸事も遊びも、伝統として受け継がれるのが宝塚。「男役の魂もバトンを渡し渡され102年続いてきた」。焼きそばにも意味がある。次代「焼きそば兄さん」にバトンを渡すまで「花組の彼氏」が腕をふるう。【村上久美子】

 ◆サイエンス・フィクションラブ・ストーリー「アイラブアインシュタイン」(作・演出=谷貴矢氏) 人間と、アンドロイドの「愛」をめぐる物語。舞台は20世紀中盤。天才科学者アルバート(瀬戸)が開発したアンドロイドは、人々の生活に欠かせない存在になっていた。だが働き口をめぐり、人とアンドロイドは対立。アンドロイドのエルザ(城妃美伶)が、アルバートに「感情を与えてほしい」と頼む。親友の科学者(水美舞斗)とともに作業を進める中、アルバートはエルザに亡き妻(桜咲彩花)の面影を見る。

 ☆瀬戸(せと)かずや12月17日、東京都生まれ。神田女学園高を経て、04年入団。花組に配属。10年8月「麗しのサブリナ」で新人公演初主演。スタイリッシュな立ち姿、的確な役作りに定評があり、昨年1月、当時専科の北翔海莉(現星組トップ)主演の「風の次郎吉」でも、遠山景元を好演。花組男役としての実力を発揮している。13年目でバウ初主演。身長172センチ。愛称「あきら」。