9年目の若き新トップ、月組の珠城(たまき)りょうは、トニー賞受賞の名作群像劇「グランドホテル」で本拠地の兵庫・宝塚大劇場お披露目公演中だ。天海祐希に次ぐスピード就任の珠城は生粋の月組育ち。「9年育った月組で(トップ就任は)本当に幸せ」と思いをかみしめ、新生月組を率いていく。宝塚公演は30日まで、東京宝塚劇場は2月21日~3月26日。

 新年初日、初めてトップの大羽根を背負い、最後に大階段を下りた。

 「けいこの初日に理事長から『お正月公演をする組が、その年の宝塚を担う』と言われました。毎回(自身の組が)正月(公演)に当たるわけではないですし、気持ちも新たに、背筋が伸びる感覚はありました」

 昨年9月、前トップ龍真咲の後任として、9年目でトップの座に就いた。「未熟なのに、主演男役と言われたときは心が乱れ、ざわつきました」。既にトップ初主演作「アーサー王伝説」を東京、大阪で終え、落ち着きを漂わせる。

 もともと男役らしい強さ、たくましさが武器。下級生時代から抜てきが続いたが、ひそかに悩んでいた。新人公演時代の7年目だった「ルパン」(13年)の頃がピークだった。

 「早い段階で(新人やバウで主演の)場を与えていただき、こんなに未熟なのに。人気商売ですし、宝塚に向いていないと思って」

 周囲からは順風満帆にしか見えず、先輩も「これからなのに?」と驚いた。

 「どうすれば期待に応えられるか、期待が大きいほど失敗できないと思ったり。自分で自分を追い詰めていた。周りの目も気になって。でも年々、よろいのような物が外れていった」

 学年が上がり、仲間と舞台を作る一体感を重ねるうち、苦悩も和らいだ。

 「上級生の方から『トップなのに、今が一番ゆるい』って言われます(笑い)。今は周りも自分も信じることができるので、一番、自然体でいられます」

 自然体で迎えるトップ1年生は今年やっと、節目の「男役10年」に入る。

 「まだまだこれから。私自身、肩の力が抜けて、どう変わるのか楽しみです」

 公演中の「グランドホテル」は、宝塚では93年に涼風真世の退団公演として初演。涼風は余命少ない会計士オットー役で主演したが、今回は貴族ながらに貧しく、盗みも働くフェリックス男爵を主人公にすえた。

 「人生や命を軽んじ、スリルを楽しむ男が変わっていく。私にとって新しい挑戦でもあります」と言い、再認識した思いもある。

 「舞台は誰か1人でも気持ちの面で負けたり、欠けたりしたら成立しない。下級生まで皆が、活気があって充実した日々です」

 新生月組のかじをとり始め、決意したこともある。

 「(公演に)真摯(しんし)に向き合う私の姿を見て、下級生が頑張ろうと思えるトップでありたい。皆さまからたくさん愛をいただけるのがトップ。私はどうやって、みんなに返していけるか。“心”を伝えられる存在でありたい」

 相手娘役の愛希(まなき)れいかは、1学年後輩で、宝塚音楽学校時代は本科、予科の間柄。新人公演でも共演し、トップコンビでは珍しい近い世代だ。

 「今までと(関係性を)変える必要も無い。急にかしこまられても困るし、私も。でも、だからこそ生まれることもあると思う」

 前トップ龍にも仕えた愛希を相手役とし、ともに歩んでいく。【村上久美子】

 ◆ザ・ミュージカル「グランドホテル」(特別監修=トミー・チューン氏、演出=岡田敬二氏、生田大和氏)1928年のベルリンが舞台。高級ホテルを訪れた人々が、1日半のうちに繰り広げる人生模様を描いたミュージカル。89年にブロードウェーで幕を開けた同作は、トニー賞で5部門受賞。ロンドンやベルリンでも上演され、93年に涼風真世を中心とした月組で宝塚版として上演された。

 ◆モン・パリ誕生90周年 レヴューロマン「カルーセル輪舞曲(ロンド)」(作・演出=稲葉太地氏)日本初のレビュー「モン・パリ」誕生から90周年記念作。日本を出発しパリに着くまでを描いた「モン・パリ」に対し、パリから宝塚を目指して世界をめぐるバラエティー・ショー。

 ☆珠城(たまき)りょう 10月4日、愛知県蒲郡市生まれ。08年3月に初舞台。94期生。月組配属。昨年3月に全国ツアー初主演し、同9月に9年目で月組トップに。10年以内の就任は、7年目の天海祐希に次ぐスピード昇格。昨年10~11月、東京・大阪公演「アーサー王伝説」でトップ初主演。空調機メーカー「ダイキン工業」CMに出演中。身長172センチ。愛称「りょう」「たまき」。