サヨナラ公演「神々の土地」「クラシカル ビジュー」の開幕を控えた宙組トップ、朝夏(あさか)まなとは退団の実感に「まだない」と笑う。芝居はオリジナルで演出は上田久美子氏。「明るくて聡明(そうめい)な中に陰がある」ロシア軍人役だ。朝夏へのあて書きで送り出される。朝夏と同時退団する伶美(れいみ)うらら、次期トップ娘役星風まどかがWヒロイン。兵庫・宝塚大劇場で18日~9月25日、東京宝塚劇場で10月13日~11月19日。

 大きな瞳。笑うと自らがトップとして目指した「太陽」のような輝きを放つ。

 「退団の実感、まだないんですよ。上田久美子先生とも大劇場は初めてですし、ショーの稲葉(太地)先生とも初めて。最後にして新鮮な気持ち。高いハードル。集大成ではなく、まだ成長していく姿を見せたい」

 ロシア革命前夜が舞台。演じる役は「皇帝側にいても、民衆側と両方を客観的に見て、状況を改善するのに最良方法は何かを探る。大人な感じ」ととらえる。

 演出の上田氏は、あて書き(あらかじめ演じる俳優を決めてから脚本を書くこと)のヒット作が多い。宙組を率いてきた朝夏の心情、立場とも大いに重なる。

 「上田先生は『明るくて聡明(そうめい)な中に陰りがある』役が、私の持ち味に合うんじゃないかと」

 しんみりした「卒業色」は「あまり出したくない」と言うが、芝居、同じくオリジナルのショーともサヨナラ演出は織り込まれる。ショーは「宝石」がテーマ。「とても美しい。扉がバーッと、そう、夢への扉が開く感じです」と言う。

 朝夏は「ダイヤモンド」の設定で、組メンバーはそれぞれの宝石にふんする。

 「私も磨き、磨かれてここまできた、そんな感じの歌詞もあって…。自分1人の力では到底、ここまでこられなかった。『朝夏まなと』として歌も踊りも、ショーの表現として、これ以上ないというところまで突き詰めたいと思います」

 足長スタイルで、華やかな立ち姿は、花組時代からファンを魅了し、ダンサーとして注目されてきた。歌、芝居にも磨きをかけ「ダイヤモンド」まで成長した朝夏の足跡も描かれる。男役の象徴、黒えんび姿でソロで踊る場面もある。

 「私が継承してきたものを、下級生に伝えていくのも大事。培ってきたものを表現したい」と約束した。

 実感がないと言いつつも、随所に「覚悟」はのぞく。「(稽古の)集合日、あいさつしたときは『最後なんだ』って、一瞬思いましたけどね」と笑った。

 男役として16年。「ほんとに充実していた。組子やファンの方、スタッフ、いろんな方に支えられたおかげ」と振り返る。

 転機は組替え。節目10年で花組から宙組へ移った。

 「組替えしてから与えていただける役幅も広がり、1作品ごとが挑戦。主演(トップ)にならせてもらってからもそう。挑戦して乗り越えて、挑戦して…と」

 宙組では、役代わりで「風と共に去りぬ」のヒロイン、スカーレットも演じた。トップ就任からは「宙組の太陽」としての存在を心がけてきた。どのくらい照らせたかを聞くと「まだ、結論は出したくない。(退団日の)11月19日に聞いてください」。千秋楽のその日まで、宙組を照らし続けていく。【村上久美子】

 ◆ミュージカル・プレイ「神々の土地」~ロマノフたちの黄昏~(作・演出=上田久美子氏) 1916年、ロシア革命前夜。皇族で有能な軍人、ドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフ(朝夏)は、皇帝の身辺警護のためペトログラードへ転任を命じられる。王朝を救う道を模索する彼にフェリックス・ユスポフ公爵(真風涼帆)がラスプーチン暗殺を持ちかける。そのころ、皇帝から皇女オリガ(星風)との結婚を勧められるが、ドミトリーの心にある女性の面影がよぎる。

 ◆レヴューロマン「クラシカル ビジュー」(作・演出=稲葉太地氏) 宙組メンバーを宝石(ビジュー)になぞらえ構成する。

 ◆朝夏(あさか)まなと 9月15日、佐賀市生まれ。02年入団。花組配属。05年「マラケシュ・紅の墓標」で新人公演初主演。12年6月宙組。13年「風と共に去りぬ」でヒロインのスカーレット。得意のダンスに磨きをかけ、15年2月に同トップ。同3月「TOP HAT」でトップ初主演作。以後「王家に捧ぐ歌」「エリザベート」などに主演。身長172センチ。愛称「まぁ」「まなと」。