男役10年の節目を迎えた花組スター柚香光(ゆずか・れい)が、福岡・博多座公演「あかねさす紫の花」「Santé!!」(26日まで)で、同組トップ明日海(あすみ)りおも演じる主軸の役に臨んでいる。

 異例のトップとの役代わりに「衝撃でした」。屈託なく笑って話す。

 「明日海りおさんと! トップの方と役代わりって、あまり聞いたことがないので、最初はすぐに理解できませんでした」

 今芝居は、飛鳥時代を舞台に、中大兄皇子、大海人皇子の兄弟と、額田女王との恋模様を描く。明日海と柚香、鳳月杏(ほうづき・あん)が、中大兄皇子と大海人皇子、額田女王と同郷の仏師・天比古を役代わり。大海人皇子役が明日海、柚香の役代わりとなる。

 「(役代わりで)額田女王との関係性も変わってくる。その繊細さを大事に」

 芝居は、76年に榛名(はるな)由梨、安奈淳のダブルトップ体制だった花組で初演。以後は、トップのカラーに合わせ、兄弟いずれかを軸に再演されてきた。今回は明日海が兄弟を役代わりし、明日海の役を軸に上演。だが、もともとはダブル主演作で、兄弟とも主演級の力量が求められる。

 「新人時代から明日海さんの役をさせていただき、その思いがフラッシュバックして(笑い)。ずっと背中を見ていましたし…」

 柚香は、新人公演に何度も主演。明日海ら本役を手本にしたが、今回は違う。

 「自分の思う芝居をきちんと提示しないと。大海人皇子の魅力は、まず、彼の持つ優しさ。尊敬していた兄への葛藤。権力の前に翻弄(ほんろう)されていくところを出せたら」

 明日海が作る「大海人皇子」に寄せようとも、違う形にしようとも思わない。

 「明日海さんのお芝居が大好きなので、自分の解釈が、明日海さんと近ければうれしい。演じる人が違えば、それぞれの個性が役柄にも現れると思う」

 2番手の芹香斗亜(せりか・とあ)が宙組へ組替えになり、立場も変わった。

 「明日海さんのすさまじいエネルギー、パワーを間近に感じ、私も『ああ、責任ある立場になってきたんだな』と実感しました」

 自覚も備わってきた。

 「明日海さんの横にいると、周り(の生徒)に対しても敏感になる。もっとこうして欲しい、次はこうできる、とか。以前よりも皆の顔が見えるように」

 自身の「男役10年」も気構えることなく迎えた。

 「日々、明日海さんから受ける刺激が、自分を震撼(しんかん)させています。志高くてストイック。近くに立たせていただくほどに、その大きな差を感じます。だから、必死にしがみついていくしかない」

 華やかで圧倒的なオーラ。新人時代から輝いていた柚香の個性は、明日海のもとで、さらに磨かれている。ただし、身上は不変。「慌てる自分が嫌いなので、できるだけ急ぎたくない」。花組一筋の御曹司スターは、光に満ちた景色の中、マイペースを崩さす、頂点へ向かう。【村上久美子】

 ◆万葉ロマン「あかねさす紫の花」(作=柴田侑宏氏、演出=大野拓史氏) 76年に榛名由梨・安奈淳のダブルトップ体制だった花組で初演。以来、中大兄皇子編、大海人皇子編と、主演のキャラクターに合わせて再演が重ねられてきた。律令(りつりょう)国家形成の立役者となった中大兄皇子、大海人皇子の兄弟が、額田女王をめぐって繰り広げる愛憎劇を描く。

 ◆レビュー・ファンタスティーク「Santé!!~最高級ワインをあなたに~」(作・演出=藤井大介氏) ワインを飲んで見る「夢」がテーマ。昨夏の本拠地作ショーでも上演。

 ☆柚香光(ゆずか・れい)3月5日、東京都生まれ。09年入団。花組配属。14年2月「ラスト・タイクーン」で新人公演初主演し、同6月には「ノクターン」で宝塚バウホール初主演。同年「エリザベート」本公演で芹香斗亜とルドルフ役代わり。15年8月の台湾公演はオスカル役。昨秋には「はいからさんが通る」で、外部劇場も初主演。身長171センチ。愛称「れい」。