2歳から培った深い宝塚愛-。星組人気スター愛月ひかるは、男役の品格を示して退団公演「柳生忍法帖」「モアー・ダンディズム!」に臨んでいる。宙組で育ち、専科を経て星組へ。19年の専科異動時から退団を意識したと言うが、志にぶれはなし。まっすぐにゴールへ向かう。兵庫・宝塚大劇場は11月1日まで、東京宝塚劇場は11月20日~12月26日。東京千秋楽をもって退団する。

真っ白なスーツで退団公演の取材会に臨んだ愛月ひかる
真っ白なスーツで退団公演の取材会に臨んだ愛月ひかる

最後のインタビューは真っ白なスーツ姿で現れた。

「白色が似合う男役でいたいというのはずっとありました。(稽古時から)とってもすがすがしい気持ちで毎日過ごし…。ほんとにこの2作品がラストでよかったなと思っています」

トップ礼真琴が柳生十兵衛にふんする芝居で、芦名一族の再興を期す芦名銅伯を演じる。「年齢不詳なほど美しく妖艶で怖い」設定。最近多いミステリアスな役柄だ。「(近年)悪役、ラスボス、不死身という役が…今、宝塚で一番得意なんじゃないか」と、笑う。

「王妃の館」でカツラのサラリーマン、「神々の土地」は怪僧ラスプーチン…と、個性的な役柄で好演を重ねてきた。「自信がなく、下級生感が抜けなかった」と振り返った宙組時代から、専科を経て、星組で個性はより磨かれた。

「(専科を経験し)1人でやっていかなきゃ-。星組に移った時点で、退団を決めていたのも大きかったですね。もうやるしかない。悔いを残したくない」

退団は、宙組から専科へ移って意識。星組異動で決意に変わった。「一番充実している時期に、惜しまれて辞めたい。それが一番(の理由)です」。7月に東上主演作も終え「ここかな? と思っていた時期」に合致した。自身も、筋金入りの宝塚ファンだった。それゆえ、どんな悪役にも、品格は醸し出される。

「品格を大事に-下級生の頃からみじんもブレなかった。それだけは自信を持って言える。最後まで突き通すのみ。私の姿勢、舞台姿から、少しでも星組の下級生たちに残せたら」

その「品格」とは-。

「宝塚を愛しているというのが一番。誇りをもってやっています。外の舞台とは違った魅力がある。その心意気、気持ちを大事に」

今作、ショーは岡田敬二氏の「ダンディズム」シリーズで、宝塚王道のレビュー。これまで、軍服姿が麗しい「うたかたの恋」をあこがれの演目にあげてきたが、岡田氏が意向をくんだ場面も設けてくれた。

「(ショー演出の)岡田先生が『最後は愛月に軍服を着せたい』と。真っ白な軍服で、指先まで神経の行き届いた品格のある男役像をしっかりと見せられたらいいなと思います」

振り付けはシンプルゆえに「隅々まで神経を研ぎ澄ませ、1歩歩くだけで華やかさが出る。それが原点」。周りの男役は軍服、娘役はドレス姿で従える。

「男役の世界は娘役さんがいてこそ。もっと娘役の誇りや自覚をしっかり持ってやらないと。私、普段はあまり厳しく言わないんですけど…」。稽古時に珍しく、厳しく指導した。

男役15年。思い出を問われ、逆に「つらかった」ことに触れた。

「エリザベート(のルキーニ)と、専科行きの話が出た時。ルキーニは自分の中で完成したとは思っていない。あのときはまだ自由に存在するということが本当に難しくて…。でもその経験があったから、(前作『ロミオとジュリエット』のダンスのみで表現する)死で、自由に表現する楽しさを伝えることができた」

転機も、16年「エリザベート」ルキーニだった。

「(前年の)『TOP HAT』で初めて三枚目を、そして(狂言回しの)ルキーニ。苦戦はしましたが、今思えば、お芝居の感覚がさらに開けたような気がします。男役は、王子様を目指して(宝塚に)入ってくるけど、役者として『作品に一番必要な存在』になりたいと思うようになったのもこの頃ぐらいから」

ファンへの感謝も尽きない。「専科行きは私よりも悲しんでくれ、組生に戻った(星組異動)時は喜んで。いつだって無償の愛で」。コロナ禍でファンとの交流が減り、舞台から「感謝」を伝える。「星組の子は皆、熱く、発散してくれる」。熱き仲間と、誰よりも熱く深い宝塚愛を胸に、15年築いてきた「品格」を極めて退く。【村上久美子】

白が似合う男役に-と掲げ、貫いてきた愛月ひかる
白が似合う男役に-と掲げ、貫いてきた愛月ひかる

<皆さまが「見たい」自分を>

宝塚、東京ともに千秋楽にはサヨナラショーが予定される。内容は「オーソドックス。皆さまが『見たい』自分が出せるかな」。退団後の芸能活動の継続には「難しい質問ですけど、私はほんとに宝塚が好きなので」と明言を避け「この言葉からくみとっていただけたら」と話すにとどめた。

◆宝塚剣豪秘録「柳生忍法帖」(脚本・演出=大野拓史) 山田風太郎の小説「柳生忍法帖」が原作。会津藩主・加藤明成は、出奔した家老・堀主水を断罪。東慶寺にかくまわれた堀一族の女性たちは、天樹院(千姫)の決意のもと、敵討ちを誓い、指南役に柳生十兵衛を招く。愛月は、十兵衛と敵対する芦名銅伯役。

◆ロマンチック・レビュー「モアー・ダンディズム!」(作・演出=岡田敬二) 男役の美学を追求する「ダンディズム」シリーズ第3弾。95年花組で真矢みき(当時)、06年星組で湖月わたるが主演した。

☆愛月(あいづき)ひかる 8月23日、千葉県市川市生まれ。07年入団。宙組配属。10年「誰がために鐘は鳴る」から新人公演4回主演。14年「SANCTUARY」で宝塚バウホール初主演。16年「エリザベート~愛と死の輪舞~」で暗殺者ルキーニ。17年「王妃の館」でコミカルな中年男性、「神々の土地」で怪僧ラスプーチン、18年の東上初主演作「不滅の棘」で不死の男。19年2月専科へ、同11月星組。今年7月にも「マノン」で東上作主演。身長173センチ。愛称「あい」「ちゃんさん」。