8月31日付で退団する雪組トップ壮一帆。同時退団する同トップ娘役愛加(まなか)あゆとともに4月15日から21日まで東京・日本青年館大ホールで雪組公演「ミュージカル 心中・恋の大和路」に出演します。

 今作は歌舞伎の「封印切」「新口村」として親しまれる、近松門左衛門の代表作だ。壮演じる飛脚問屋の忠兵衛が遊女の梅川(愛加)への恋から道を外れながらも純愛を貫く様を描く。すでに大阪公演を終え、壮の忠兵衛からは「軽やかな二枚目像」が浮き上がっている。「歌舞伎では『つっころばし』。優男というのは分かっていたんですけど、実際やってみるとすごく難しい。自分の中に引き出しがない役。でも、私は2番手時代からいろんなキャラクターをやらせていただき、トップでも挑戦させてもらえて、ありがたいですよ」

 これまで二枚目といえば「爽快感、清潔感、白が似合う。王子様みたい」と考えていたが、今作でその定義を考え直した。

 「忠兵衛は頼りない、ダメな男だけれども、人に愛されている。とくに八右衛門は、忠兵衛に貸した50両が返ってこないのに最後まで応援する。忠兵衛は、人間的な二枚目。そこがちょっと、劉邦に似ていると思ったんですよね。劉邦は国を造ったけれど、忠兵衛は国を造るどころか、逃亡にも失敗していますけど…」

 劉邦とは、前漢の初代皇帝。漢の建国者だが、若き日は酒色を好んだ侠客(きょうかく)だった。ただ飲み屋でも、劉邦の周りに人が集まったと伝わり、不遇の無名時代から備わっていた人望が、天下を取らせたとも言える。中国未曽有の軍事家・項羽を相手に、負け続けても戦略を練り直し、最後には打ち勝った。そんな劉邦に、忠兵衛を重ねけいこに励んだそうだ。

 「時代小説が好きで、永井路子さん、田辺聖子さん、司馬遼太郎さんあたりは、よく読んでいました。平安時代あたりから、司馬さんだと新選組とかですね」

 人物を掘り下げることが好きだ。遊女への激烈な恋ゆえ、身を持ち崩していく忠兵衛の「二枚目」を考えるうちの発見だった。宝塚版では、忠兵衛に金を貸す八右衛門を親友思いの人情家として描き、原作に近い。

 「コミカルな場面もありますから、歌舞伎と通じる点もあるけれど、八右衛門のキャラクターが真逆です」

 同時退団する娘役トップ、愛加あゆとは「添い遂げ退団」と言われていることに「彼女は同志、戦友です。より絆が深まったかもしれません」と豪快に笑う。

 「心がけているのは、元気でいること! トップが失速したら、組に影響を与える。つねに健康を心がけ、いつも、ある程度の温度を保つように。落ち込むならしっかり落ち込む。ここまで落ちたら、明日はきっといいことがあるって思えるぐらい。買い物で気分転換して、前向きであるように。だって、前を見てなかったら進めないもの!」

 サヨナラ公演「宝塚傾奇絵巻 一夢庵風流記 前田慶次」「My Dream TAKARAZUKA」を含め、残り2作。求心力を武器に、最後まで雪組を率いる。【村上久美子】

 ◆ミュージカル「心中・恋の大和路」~近松門左衛門「冥途の飛脚」より~(脚本=菅沼潤氏、演出=谷正純氏) 近松門左衛門の代表的な世話物のひとつ。文楽、歌舞伎の題材として知られ、飛脚問屋の養子・忠兵衛(壮)が、店の金に手をつけて遊女の梅川(愛加)を身請けし、進退窮まる様を、男女の純粋な愛を軸に描く。宝塚では、79年に瀬戸内美八主演で初演。82年にも再び瀬戸内が、89年に剣幸、98年には汐風幸主演で上演されている。

 ☆壮一帆(そう・かずほ)8月7日、兵庫・川西市生まれ。96年「CAN-CAN」で初舞台。花組配属。01年、雪組へ移り「愛燃える」で新人公演初主演。06年に花組。12年12月、雪組へ戻りトップ就任。16年9カ月で就任は劇団最長。13年2月「若き日の唄は忘れじ」(中日劇場)でお披露目。「心中・恋の大和路」の次は、最後の本拠地作品で前田慶次を演じる。身長170センチ。愛称「So」。