お笑い芸人の田村淳だが、演ずることについてはどう思っているのだろう。今回は、俳優や声優、演じるということ、について聞いてみた。

歌も作ったことがある。「たむらあつし」作詞作曲のシングル「もずくん」のキャラクターもずくんです。(写真は本人提供)
歌も作ったことがある。「たむらあつし」作詞作曲のシングル「もずくん」のキャラクターもずくんです。(写真は本人提供)

 ボクって俳優に向いてないと思うんですよね。戦国時代が好きなんで「功名が辻」っていう作品に出演したことがあるんですが、演じるのって、本当に難しい。何でこのセリフ言ってるんだろうって、どうしても覚めて考えちゃう。変に自分が演じているところを、客観視して見ちゃうところがあるんですね。ズボッと役柄の中に入り込むことができないんです。

 カメリハから始まると、同じことが何度もできないし、やりたくない。これ本番じゃないでしょってどうしても気持ちが入っていかない。監督に「本気でやってます?」って指摘されて。確かに本気ではやっていない…(笑い)。

 子どものころは学芸会で主役をやりたいって言う子だったんですけどね。そのころは客観視できないからやれちゃったんでしょうね。

 そんなこと言っていても、「声」では参加したいんですよね。最初に声優やらせてもらったのは11年前。アメリカンフットボールを題材にした「アイシールド21」(作・稲垣利一郎、画・村田雄介)という作品で、もともと少年ジャンプで愛読していた作品だったんです。ジャンプは小学校から今に至るまで買い続けている唯一の週刊誌ですからね。

 キャラクターがボクに似ているって、売り込みのような形で出演させてもらったんですけど、いざやってみると、マイクに声をのせるのって、ものすごく難しい。プロの声優さんたちの仕事ぶりに感動しました。じっと見ていて、回を重ねるうちに声だけで表現するってこういうことなんだっていうのがだんだん分かって来たんです。どんどん楽しくなって来たんです。

 プロの人って声の厚みもブレスの仕方も全然違うんですよ。ボクの声も、バラエティー番組とかでは通る方だと思うんですけど、あの人たちが声をマイクにのせると全然違うんです。実際でき上がったものを見てみると、ボクのが若干聞き取りにくかったりした。

 「アイシールド21」は4年続いたし、その後「シンプソンズ」とかもやらせてもらって、こうすれば声がマイクにのるんだっていうのがだんだん分かって来たんですね。少しずつ声優に慣れてきたころに、番組の中で「お前いろいろ声優やってるけど、本当に技術持ってるのか?」って言われて、番組企画で声優検定を受けたら、一応2級取れたんですよ。

 ちょうど10年前になりますけど「ドラえもん」がリニューアルして声優が入れ替わったときがあったんです。キャラが似ているのはやっぱりスネ夫だなと思って、家でセリフを録音して制作会社に送ったんですね。吉本(興業)にはナイショで。最初の審査は通ったんですが、放送しているテレ朝の内部で、「この『たむらあつし』ってあの?」っていうことになって、吉本に確認が行ったんですね。それで「何、勝手なことしているんだ」と降ろされちゃったんですよ。残念でした…。

 アニメーションに興味を持つようになったのは新海誠さんがきっかけですね。対談することになって。正直にいうと、実はそれまで新海さんの作品って見たことがなかったんですね。で、対談の前に集中的に見たんです。ディープで分かりづらいものを想像していたんですが、見てみると映像がものすごくきれいだし、ストーリーも琴線に触れるものがあって、心を揺さぶられちゃったんですよ。

 アニメーションはボクにとって未知の世界だからこそ、よけい知りたくなったんですね。「サマーウォーズ」がいいなと思って細田守さんとも対談させてもらいました。3年前、「おおかみこどもの雪と雨」の公開のタイミングでした。「バケモノの子」も良かったし、細田さんの作品好きですよ。

粘土で作った人形を動かしては1コマ撮影して作っていくクレイアニメ。やってみると意外と良くできた(写真は本人提供)
粘土で作った人形を動かしては1コマ撮影して作っていくクレイアニメ。やってみると意外と良くできた(写真は本人提供)

 実はクレイアニメを作ったことがあるんですよ。後輩と一緒に2カ月くらいかけて。仕事が終わって家に帰ったら、粘土で人形作って少しずつ動かして1枚ずつ撮っていく。

 車のアニメを作って、急ブレーキかけて前のめりになったり、ぶつかってグシャッとしたり…けっこうできるじゃんって。作品としては黄色いロボットがいろんな島を旅するって話を作って、子どもができたら見せようと思ってとってあるんですけど。友だちの子どもに見せたら、クスリとも笑わなかった…。作った方は大変さを知ってるんで面白いと思うんですけど、第三者が見たときには何の心も打たない作品になってしまったようでした。

 このアニメに主張があったわけじゃないですけど、誰への気兼ねもなく、自分発信できる場が欲しいとはずっと思っていたんですよ。それで、スタジオも作っちゃったんですね。

 大手メディアにでるときは、そこのルールというか、しきたりに則ってやらなくてはいけないと思ってます。そのときは“出入り業者”の立場なんで、それはわきまえているつもりです。でも、ボク自身には自主規制という感覚は無いんです。MISONOなんてネットの声を気にし過ぎて歌うのやめちゃいましたからね。

 よくボクのところに相談に来るんです。「こんなの書かれちゃった」って。でもね、ネットの書き込みを気にするのって女の人が男の携帯をのぞくのと同じ行為ですから。ちょっと何かあると、もうコレは浮気だと思いこんじゃうわけじゃないですか。何でも悪い方に解釈しちゃうんだから、見る意味はまったくないですよね。MISONOがあの歌声持っているのに「私は歌手じゃない」って言っちゃうの、ほんとにもったいないですよ。

 歌いたければ、歌えばいいじゃん。ボクは楽しいことやりたいからテレビ業界に入ったし。それが本当に評価が得られないなら、単純に仕事が来ないだけですから。自分から身を引くのは僕には理解ができない…。

 全てが自分の思い通りになる仕事なんてなかなかない…僕の仕事だってそうです!だから楽しい事に触れらるうちは、しっかりと触れていたい!

 子どものころから、横断歩道は一番前に行かなきゃ気が済まない方でした。かき分けてでも前に行って、自分で青になったのを確かめないと渡る気がしなかった。みんなが歩き出すから後から付いていくというのは嫌だったなぁ。渋谷の交差点なんかで、みんな、前の人が歩き出したら、惰性で歩き出すじゃないですか。それってとっても危険じゃねえのって思うんですよね。

 人生もそうだと思うんです。人に左右されて判断するよりも、自分自身が納得して判断しなきゃ、周りの雑音に惑わされると危険だと思うし後悔する。だからボクは、やりたければやればいいと思う。他人に決められることじゃない。人生においての青信号かどうかは自分で確認すべきだと思うんですよね。惰性的に生きたくない僕は…。

 ※連載「ロンブー淳の崖っぷちタイトロープ」は、ロンドンブーツ1号2号田村淳に、日刊スポーツの各分野の記者がさまざまなテーマで取材し、率直に話してもらう企画です。今回は「演ずること」について、映画担当の相原斎が取材しました。

(ニッカンスポーツ・コム連載「ロンブー淳の崖っぷちタイトロープ」)