錦織一清さん演出の舞台「痛快!人情時代劇 三太かわら版売り」(ニッポン放送イマジンスタジオ)のイントロ部分での口上です。もちろん「休憩なし」以外は全部シャレ。大笑いの2時間で、きょう20日、大盛況のうちに千秋楽となりました。

 無名の若い俳優にチャンスの場を提供しようと錦織さんが14年に立ち上げた「QTプロジェクト」第3弾で、初の時代劇。ニッポン放送でいちばん大きいイマジンスタジオに160のパイプ椅子を置く、手作り感満載の舞台でした。普段の演劇取材はメジャーな劇場に偏りがちで、同じような俳優を見ることになりがち。チャンスをつかもうとギラギラしている若手の熱気は新鮮で、クオリティーに圧倒されました。

 作品は、魚屋のアニキ・人助の無茶な人助けを、かわら版屋・三太の視点で追いかけていくコメディー。惜しい欠点がドラマを呼ぶ、落語っぽい世界観がハートフルなんですよね。作は、関東お笑い界の重鎮、高田文夫門下の松田健次さん。ばかばかしいギャグから古典文学まで、笑いの種にやたらと詳しい人で、「飛鳥山の桜」や「魚河岸の競り」などの江戸要素でしっかり笑わせてくれます。

 錦織さんの演出もキレキレでした。「泪橋を逆に渡る」ためのマンガすぎる特訓に笑っているととんでもない泣けるシーンが襲ってきたり、限られた空間の思わぬところにサブステージが出現したり、客席に仕込んだ小道具を一斉にステージに投げさせてクライマックスを飾ったり。アイデア力と実行力で度肝を抜くジャニーズ演劇のDNAはどんな場所でも発動可能。命がけで無謀な勝負に出る大立ち回りのかっこよさは、薫陶を受けたつかこうへい風。どちらも受け継いでカラフルに笑える錦織ワールドという感じです。

 登場人物はみんなけっこうな事情や困難を抱えていますが、人や社会のせいにしない、さっぱりとした気質なのも個人的に好み。照れとやせ我慢の江戸っ子感がよく出ていて、錦織さんもそんな下町小僧の1人なのかもと感じます。女性陣がめそめそしていないのも魅力的。現実と折り合いをつけながら、それぞれのやり方で突破口を探す姿に、いい読後感があります。

 せりふ量も多く、展開につぐ展開。やっている9人の俳優さんたちは大変だと思いますが「無名の若い役者たち」とは思えないほどぐいぐい物語に引っ張ってくれました。所属は北区つかこうへい劇団、松竹新喜劇、現役大学生などさまざまで、魚屋の人助を演じた三浦祐介はつかこうへい劇団10期生。隅々までよく通る舞台人らしい声が、激アツな魚屋さんにぴったり。三太を演じた劇団「開幕ペナントレース」の森田祐吏とともに、爆笑のやりとりを見せてくれました。客演は「仮面ライダー響鬼」の川口真五、元宝塚歌劇団雪組娘役の天舞音さら。

 「無名の若手にチャンスの場を」と、ライフワークにしてここまで仕上げている錦織さんの心意気が、人助アニキに重なります。三太のかわら版、いい読み切りでした。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)