死因究明の法医学をテーマにしたTBS金曜ドラマ「アンナチュラル」(金曜10時)7話で、いじめ首謀者を告発して死のうとしている高1男子に、主人公の三澄ミコト(石原さとみ)が語った言葉です。

 「命の大切さ」とか「君は1人じゃない」みたいな精神論ではなく、命と引き換えることがいかに割に合わない相手であるかを具体的に示す理系アプローチ。加害者側の反省とか解決などというメルヘンはなく、「あなたの痛みは決して彼らに届かない」と言い切って絶望から救ってやる問題提起でした。受け取り方は人それぞれだと思いますが、いじめを扱ったドラマでこれだけ的を射た言葉に出会い、救われる思いがしたのは初めて。ネット上も「胸が締め付けられた」「涙が止まらない」と、今も大きな反響が続いています。

 物語は、殺人者Sを名乗る高校生が、「僕が殺した」という高校生Y君の刺殺体をネットでライブ配信し、「死因は何でしょう」とミコト先生に挑戦状を突きつけるという展開でした。死の真相はY君の自殺。自分の背中をどうやって3カ所も刺せたのかというトリックにミコトがたどり着くにつれ、背後にあった壮絶ないじめと、誰も知らなかったS君とY君の友情が明らかになっていきます。

 脚本は「逃げ恥」の野木亜紀子氏のオリジナル。S君とミコトの公開対決が始まったくだりから、Y君だけを死なせてしまったS君の落とし前まで、これだけの人間ドラマを1時間で描いてみせた氏の力量に圧倒されるばかり。「法医学的には自殺。でも私は、殺されたんだと思う」「法律では裁けない、いじめという名の殺人」。ミコトにこう言い切らせたところに作者の意志がきちんとあって、賛否のハレーションは狙い通りだと思います。「あなたの人生は、あなたのものだよ」。S君に語る間、ミコトが決して泣かない凜とした演出。脚本、演出と志を共有し、きちんと形にした主演女優の力もさすがでした。

 「僕だけ生きていていいのかな」。7話の世界観を一身に背負うS君を演じた望月歩くん(17)の涙が素晴らしかったですね。「死ぬな」ではおそらく救えなかった彼に「許されるように、生きろ」と言った中堂(井浦新)のせりふも、ネット上を駆け巡っています。ミコトも中堂も“残された者”の当事者であるという背景が効いているんですよね。最後に市川実日子が着ていた白衣をY君の遺体にかけ、そっとなでてやる一瞬は、忘れられない名場面になりました。

 基本的に、テンポのいい会話劇が笑える明るい作品なのですが、不自然な死=アンナチュラル・デスをめぐる人間模様はかなり骨太。過労死、自殺志願者をねらう殺人、仮想通貨など、現実の社会問題がしっかり盛り込まれているのもあざやかです。

 当コラムの冬ドラマ評(1月31日付)で今期No.1に挙げた作品ですが、毎回ここまでの見ごたえをみせてくれるとは。「逃げ恥」「重版出来!」など原作ものを扱ううまさで評価を積み上げてきた野木脚本は、オリジナルもずば抜け。ただちに続編をお願いしたい本音はさておき、いよいよの謎が明らかになっていくラストスパートが楽しみです。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)