女優小泉今日子の主演舞台「お蘭、登場」(シアタートラム)で、堤真一と高橋克実がアドリブコーナーで語った言葉です。演劇の長尺化は、演劇担当記者の間でもここ数年本格的に話題になっています。私自身、明らかに長くてテンポが悪いと感じるケースが増えていただけに、「1時間20分(80分)がベスト」という見解を共感して聞きました。

 「社長」とは、2人のほか、段田安則、浅野和之、三谷幸喜ら演劇人を多く抱える舞台制作大手「シス・カンパニー」の北村明子社長のこと。今回の「お蘭、登場」をはじめ、人気公演を次々とプロデュースしている演劇界の敏腕です。シアタートラムのような、客席数250規模の劇場では1時間20分がベストと考えているようで、「お蘭、登場」は1時間15分。「1時間25分になっちゃった回がもう2度もある。3回やったら罰金じゃなくてクビなのかな…」。おろおろと爆笑をとる2人が、上演時間をめぐる舞台裏を明かしていました。

 歌舞伎や明治座のような大劇場など、幕間にお弁当を食べたりおみやげを買ったりという時間がパッケージになっている老舗スタイルの場合は、2度の休憩をはさんで4時間超えというのが基本形だったりしますが、一般的な演劇でも、120分+休憩15分+90分で計3時間45分、みたいなケースが本当に増えました。「仕事帰りに演劇でも」みたいなカジュアルな雰囲気ではなくなっているんですよね。

 好みは人それぞれですが、個人的には「エンタメ90分説」がしっくりくるので、80分がベストという感覚に賛成です。映画が最大の娯楽だった昭和の最盛期は90分2本立ての名作がいくつもありますし、「火垂るの墓」(89分)と同時上映だった「となりのトトロ」は86分。物足りないと思ったことは1度もありません。大学の授業もだいたい90分。舞台のマスコミ取材日に足を運んでも、90分を超えると周囲の時計を見る率がぐんと上がる印象です。

 ドリンクOKでトイレも自由である映画に比べ、肉体的負担がぐんと上がる演劇は、やはり90分がひとつの目安だと思うのです。劇場内に休憩の飲食施設や物販が充実している宝塚歌劇、劇団四季、帝劇のジャニーズ演劇などは、休憩をはさんでの2部構成を軸としていますが、座りっぱなし状態が90分を超えない配分はうまいです。先日、本場ブロードウェイのオリジナルキャストで見た「エビータ」東京公演(29日まで、東急シアターオーブ)は、55分+60分でしっかり感動巨編になっていて、客席総立ちの大歓声でした。

 演劇が長くなる理由はさまざま。出演者にもれなくせりふと見せ場を設けているとどんどん長くなるというありがちなケースのほか、あれもこれも大事に思えて、客観視して切ることができない作り手も増えたのだと思います。長いことがサービスだと信じている制作者が一定数いるらしいことにも驚かされます。以前、ある小劇団の座付き脚本家は「チケット代を考慮し、長く見せてお得感を感じてもらわないと」。今ある完成形をどう伸ばすかに苦心していて、完成度より“分単価”重視の価値観に面くらいました。

 1分伸びたら罰金1万円の真偽はさておき、75分で完成度のピークを演出した「お蘭、登場」は、テンポのいいヤマ場の連続で痛快な見ごたえでした。「人間椅子」「鏡地獄」「地獄の道化師」など江戸川乱歩の作品群と、そのすべてに関わっていたワケありヒロインの“裏犯罪”の二重構造になっていて、乱歩の妖しい世界観と、キョンキョンの二十面相ぶりにわくわく。探偵&警部との丁々発止にげらげら笑い、やがて分かってくる事件との接点にほろりともさせられる。笑いと哀しみのぜいたくなフルコースでした。

 この原稿も“ネット記事2000文字限界説”を踏まえ、早めに締めることにします。

 「お蘭、登場」東京公演は16日千秋楽。大阪公演は7月19日から同26日まで、サンケイホールプリーゼで。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)