NHK大河ドラマ「真田丸」の初回視聴率が19・9%で好発進した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。主人公真田信繁(幸村)を演じる堺雅人をはじめ、草刈正雄、大泉洋、平岳大らいわゆる“三谷組”の俳優たちが持ち味を発揮しまくっていて、三谷ファン、大河ファンとしてわくわくするスタートだった。

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 主演堺雅人と三谷氏の大河ドラマは「新選組!」(04年)以来12年ぶり。堺は「真田丸」主演を決意した理由を「まず、三谷作品に50話出られる喜び」と語っている。

 記念すべき1話のファーストシーンは、徳川軍の偵察に向かう若き真田信繁(幸村)が森を走るシーンだった。「見つからなければいいことですぞ」と張り切るものの失敗し、川へドボン。敵に囲まれ、盗んだ馬で野原を爆走して逃げまくった。必死の形相がネット上で「顔芸」と話題になっていた通り、疾走感と土臭さが画面からはみ出しそうな勢い。小学生のころ夢中で見た「黄金の日日」(78年、脚本市川森一)や「獅子の時代」(80年、脚本山田太一)のような、自由で広々とした大河黄金期のDNAを感じた。

 42歳の堺が15歳くらいの信繁を演じている計算。ネット上も「見える」「見えない」でざわついていたが、こちらがその気で見れば、17歳くらいに見えなくもない不思議。三谷氏が愛してやまない大泉洋が兄信幸を演じ、仲のいい若き兄弟ぶりもほほ笑ましい。脚本と演出のたまものだろうが、俳優が幼なめの演技を堂々とやっているので違和感はなかった。個人的に、よほどの理由がない限り主演不在の子役時代から話を起こす前置き型が好きではないので、1話から「この主演俳優についてこい」と堺雅人で来た三谷氏のエンタメ力にわくわく。自由で大胆で合理的な信繁の魅力が1話からよく分かり、一発でこの主人公のファンになった。

 そんな堺自身、「1話は草刈正雄さんに尽きる」と語る存在感を放っていたのが、真田家当主、真田昌幸を演じる草刈正雄だ。こちらも一昨年、三谷氏の舞台「君となら」で信じられないくらい客席を笑わせていた三谷組の1人。「真田丸」では一族のキーマンとしての登場である。「真田太平記」(85年)では真田幸村を演じており、今回は父昌幸役というのも胸躍る。

 無双の軍事センスとしたたかさで乱世を生きるローカル武将の魅力がどっしり。一族に「武田が滅ぶことは決してない」と大見得を切った直後、息子2人を呼んで「武田滅びるぞ」。主君武田勝頼に「浅間の山が火でも噴かぬ限り武田は安泰でございます」と言った次のシーンで浅間山が噴火。大まじめな顔と三谷脚本の相性が抜群で、しれっとした存在感に大いに笑い、圧倒された。

 一方、平岳大の武田勝頼には泣かされた。武田家滅亡を招いた残念キャラとして描かれることが多いが、この作品では偉大な父を持つ苦悩の人。この先を正確に理解している聡明な人で、それでも甲斐の国に残ることを選んだ「優しくて、正しい人」(信繁)という三谷節で描いた。人質である信繁たちに別れを言いに来て、人質を免ずる証文までくれた律義さがしみる。「信玄公はもういません」と説得する信繁に向ける笑顔が切なく、落ち延びていく横顔が孤独なこと。「真田丸」自体が敗者の物語であり、滅亡から始まるこのドラマの世界観が1話からガツンときた。

 彼も、三谷氏の大ヒット舞台「国民の映画」の重要人物を務めた三谷組の1人。加えて、三谷氏が大好きな戦国大河「国盗り物語」(73年)の主演、平幹二朗の息子というのも、その世代にはツボだと思う。ルックスや演技力がどんどんお父さん譲りになってきて、そちらの意味でもうるっとくる。

 遠藤憲一(上杉景勝)、高嶋政伸(北条氏政)、内野聖陽(徳川家康)、吉田鋼太郎(織田信長)ら大名勢もカラフル。これから登場する女性陣も、鈴木京香(北政所)、竹内結子(茶々)、長沢まさみ(きり)、斉藤由貴(阿茶局)ら三谷作品の常連が並ぶ。文字通りの三谷組オールスターキャストで、いろいろ期待が膨らむ。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)