1月期の冬ドラマが出そろった。変人キャラによる異色捜査ものが量産されているほか、坂元裕二氏が脚本を手掛けた月9ドラマも話題だ。「勝手にドラマ評」第25弾。単なるドラマおたくの立場から、今回も勝手な好みであれこれ言い、勝手な好みで★をつけてみた。

**********

◆「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(フジテレビ系、月曜9時)有村架純/高良健吾

★★★★

 不遇に生きてきた若い男女が、東京で魂を寄せ合って生きた5年間を描くラブストーリー。「東京ラブストーリー」(91年)の脚本家坂元裕二氏が「最後の月9」と臨む作品。幼児虐待の「Mother」(10年)以降、徹底して社会問題にフォーカスしてきた氏の月9集大成は、おしゃれな月9とは無縁。正直者がバカを見る格差社会の底で、恋心を支えに生きる人のギリギリの世界。ファミレスでの何でもない会話は名シーンだったし、祖父への電話でぽろぽろ泣く高良健吾の横顔も美しい。細かい描写の積み重ねを2人が心を込めて演じていて、苦しさの中のキラキラがずしんとくる。東京の描かれ方がひどいけれど、何から何まで格の違う脚本。月9には暗すぎるという声もありつつ、私には十分まぶしい。

◆「ダメな私に恋してください」(TBS系、火曜10時)深田恭子/ディーン・フジオカ

★★

 彼氏なし、職なし、貯金なしの30歳独身女性と、ドSな元上司のラブコメディー。大の深キョンファンの私が、1話でギブアップしてしまった…。ひまわりのコスプレでぷーっと膨れてぷんぷん。深キョンはアイドル度数高めて奮闘しているけれど、脚本はこちらの好みとは違った。主人公がナレーションで心の声をしゃべりまくる脚本は苦手で、常にドタバタなのも苦手。朝ドラの五代さま役で列島のハートをわしづかみにしたディーン・フジオカが、対極のドSキャラに挑戦。「あ?」「おまえ頭大丈夫か」。原作に寄せた髪型のせいか、ネットで「博多大吉に見える」とか言われているけれど、深キョンとフジオカさまを愛でるドラマとしては、期待に応えている。

◆「お義父さんと呼ばせて」(フジテレビ系、火曜10時)遠藤憲一/渡部篤郎

★★★

 28歳下OLと結婚したい遠藤憲一と、断固反対のパパ渡部篤郎の中年バトル。「ハゲタカ」「医龍」などで知られる脚本の林宏司氏はホームコメディーもいけるのかと大いに笑った。渡部が安定のコメディー力。娘(蓮仏美沙子)にビンタしたら蝶野みたいなビンタが返ってきてすごい転がり。渡部の父親役の品川徹が、重厚感みなぎる顔でいちいち会話に割り込み、爆笑をさらうチャラじじいぶり。芸達者な人を集めすぎて華に欠ける作品の中で、ずば抜けた存在感と破壊力を発揮中。魅力的なおやじ勢に比べ、娘の魅力がいまひとつ。呼吸をするようにウソをつく性格は、男性にはキュートなんだろうか。2話で手詰まり感。3話以降に期待。

◆「ヒガンバナ~警視庁捜査七課~」(日本テレビ系、水曜10時)堀北真希/檀れい

★★★★

 人の心の声が聞こえてしまうヒロインのオカルト捜査。「バーカ」「うるさい消えろ」という堀北の無愛想キャラも、警察組織で浮く女性ばかり集めた外様部署という設定も、オリジナル脚本ならではの自由さが新鮮。学級委員長、プロファイラー、監察医などそれぞれの能力が集結する「009」的枠組みも楽しく、おしゃべりと頭が同時に動く女子力パワー。耳のいい堀北は003といったところで、現場に残る被害者の声に「シンクロしました、私」。要するにイタコだけれど、さみしげな堀北が「共感力」でさまざまな人の人生を見せてくれて、切ない読後感がある。アクティブなおばさんぶりが素晴らしい檀れいとの、口もきかない名コンビ。大地真央のお蝶夫人みたいな存在感がキレキレ。

◆「フラジャイル」(フジテレビ系、水曜10時)長瀬智也/武井咲

★★★★★

 今期イチオシ。細胞を顕微鏡で調べて何の病気か診断する「病理医」の世界を長瀬智也が演じる。患者との交流も治療も手術シーンもない「診断」に特化した医療ドラマが新しく、縁の下から患者を見守るスピード感にくぎ付け。無能、多忙、事なかれ主義などさまざまな理由でズレた診断をする医師に「あんたバカなのか」「僕の言葉は絶対だ」。ビッグマウス体質と、医療への正義でできている偏屈なエリート病理医を長瀬が絶妙なチューニングで演じていて、頼もしさと扱いにくさにうっとり。実証主義で戦局を打開していく理系アプローチも魅力的。この偏屈男から何かを学ぼうと転属してきた武井咲が、女優として本当に長瀬に食らい付いていて、いい距離感の師弟モノとしてもわくわく。

◆「スペシャリスト」(テレビ朝日系、木曜9時)草なぎ剛/南果歩

★★★★

 冤罪(えんざい)で10年間服役し、全受刑者の犯行手口と犯罪心理を記憶したワケあり刑事の異色捜査。「分かるんですよ俺。だって10年入ってましたから」。無遠慮キャラや犯罪テクなど、刑務所仕込みの捜査アプローチにオリジナリテイーがあって、主人公の一手に興味が沸く。冤罪の真犯人は過去4回の単発放送で解決済み。いい感じで暗さが消え、密室殺人やいろはかるた殺人など、ミステリーの定番が1話完結で展開。南果歩らオリジナルメンバーはもちろん、今回から登場の夏菜も頭は固いが働き者で優秀。1人の天才による組織改革ドラマではなく、やる気がある人たちのチームワークものであるのもすがすがしい。サクッと見られるオリジナルの快作。

◆「ナオミとカナコ」(フジテレビ系、木曜10時)広末涼子/内田有紀

★★★

 「いっそ2人で殺そうか、あんたの旦那」。百貨店勤務のナオミ(広末涼子)が、DV夫に苦しむ親友カナコ(内田有紀)を救うため、力を合わせて夫殺し。DV描写が型通りな上、「きっと地の果てまで追ってくる」ほど夫を描いていないので、正義感に燃える親友がしゃしゃり出てきて殺しを持ちかける流れに乗れなかった。めそめそとダークなサスペンスとして描いているが、原作は「空中ブランコ」で知られる奥田英朗氏だけに「できた、やったー」みたいなカラッとしたノリもあって、女2人の、のるか反るかの大ばくち犯罪の方が個人的には好み。高畑淳子が演じる中国なまりがきつい李社長が圧倒的。ケロッとした「コロシナサイ」は今期の助演女優賞。

◆「警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~」(テレビ東京系、金曜8時)小泉孝太郎/松下由樹

★★★★★

 変人系が多い冬ドラマだが、ある意味変人度はこの人が一番かも。窓際の「なんでも相談室」にやる気満々で異動してきたエリート警視の超KY捜査。事務机や電話番など、ノンキャリの世界にいちいち感動するズレたお坊ちゃんに、育ちの良さがにじみ出る小泉孝太郎君がビンゴ。並外れた犯罪学IQを持ち、聞き込みで「あなた水曜日の夜に放火しました?」と聞いて回るデリカシーのない捜査センスにくぎ付け。ブチギレる松下由樹に「階級は僕が断然上ですが、年齢はあなたが断然上ですから」と励ます笑顔に噴いた。目尻がくしゃっとなる孝太郎スマイルの突破力。無自覚なのか、確信犯なのか、正体不明な感じも軽快。登場人物がきちんと機能する端正な脚本。格別な番宣もなくゆるっとスタートしたが、すごい完成度。

◆「わたしを離さないで」(TBS系、金曜10時)綾瀬はるか/三浦春馬/水川あさみ

★★★★

 臓器提供のために作られた命が、運命とどう向き合うかを描く。英作家カズオ・イシグロ氏の世界的ベストセラーをドラマ化。受精卵→臓器取り出し→焼却ボタンという衝撃的なオープニング。オーダーがあれば受け止めて手術台へ行く若者たちの背景として、寄宿学校時代を丁寧に描くが、子役時代が2話も続くのはちょっと丁寧すぎるような。すっかり鈴木梨央ちゃんら子役勢の物語として愛着が沸いてしまい、CMだけ登場していた綾瀬はるか編にこれから感情移入できるか自信がない。2時間くらいの映画や舞台で一気に見たい衝撃。裏の日テレに「ラピュタ」と「魔女宅」をぶつけられ、視聴率が虫の息で気の毒。志の高い意欲作。

◆「怪盗山猫」(日本テレビ系、土曜9時)亀梨和也/成宮寛貴/広瀬すず

★★★

 某国で拷問にかけられながらも「武士道」の一節をそらんじてみせ、移送される車中で敵3人を制圧して脱出。映画「ジョーカー・ゲーム」の亀梨君みたいなあざやかな冒頭シーンに胸躍ったが、そこまで。わけあって「怪盗山猫」となった亀梨君は怒鳴るか騒ぐかのハイテンションキャラに固定されており、いろいろできる人なのにもったいない。女に暴力をふるうヒーローも個人的に無理。あれもこれも言わないと伝わらないのか、気が遠くなるほど説教が長い。壁にも「現実と向き合え」とメッセージ。怪盗というより昭和の説教強盗のようなウェット感。テンションが合う人には中毒性のある快作。2話視聴率13・6%は冬ドラマトップ。

◆「臨床犯罪学者 火村英生の推理」(日本テレビ系、日曜10時半)斎藤工/窪田正孝

★★

 「人を殺したいと渇望したことがある」という闇を抱えた犯罪学者火村英生と、助手としてついて回る推理作家有栖川有栖のコンビが捜査協力。脚本と演出は「地獄先生ぬーべー」のコンビ。20年以上続く有栖川有栖の「アリスシリーズ」をどう描こうか、海外ドラマ風、ガリレオ風、横溝正史風などあれこれ詰め込んだ結果、火村先生が無個性に。ミステリーのような、火村の闇のような、何を描きたいのかよく分からず、テンポの悪さを感じてしまった。ドラマが原作と同じである必要はない派だが、キーマンである陽気な有栖がワトソンとして機能していない仕上がりに戸惑う。火村&有栖のコンビである必要がなく、窪田正孝君がもったいない。

◆「家族ノカタチ」(TBS系、日曜9時)香取慎吾/上野樹里/西田敏行

★★★

 1人でいたくてマンションを買ったところ、面倒な血縁や他人の人生に巻き込まれることになった39歳独身男のホームコメディー。子連れ再婚、育児放棄の女、離婚OL、移住マダムなど、タイトル通りさまざまな家族の形が主人公を襲う。登場人物が多すぎるが、香取慎吾を中心に設計図が機能していて、ちょうどいいイライラ具合。慎吾ママや「こち亀」の両さんなど、周囲を豪快に振り回す役が多い香取が、受け身の役どころで染みる味わい。うっかりグラスを割られたくらいで中学生を怒鳴ってしまった自己嫌悪とか、この人らしい人間くささがきちんとあって、この歳で成長があるのもいい。テイストは阿部寛の「結婚できない男」、音楽と雰囲気はキョンキョンの「最後から二番目の恋」。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)