日本テレビの改編で、4月期の連続ドラマ3枠(水曜10時、土曜9時、日曜10時半)すべてが女性プロデューサーとなった。偶然とはいえ、民放初のトピックでもある。顔ぶれも、50代既婚子供あり、30代既婚、30代独身とそれぞれ。担当作品も、ラブコメ、オカルト青春もの、ゆとり男子ワールドと三者三様でカラフルだ。せっかく桃の節句でもあるので、3人のドラマプロデューサーにあれこれ聞いてみた。

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 他局に先駆けるトピックについて、黒崎太郎編成部長は「意識したわけではない」とした上で「個人的な感想として、うちのドラマ班は男性プロデューサーより女性の方が優秀な気がする」と話す。制作局勤務のドラマプロデューサーは現在21人。うち8人が女性で、この割合は他局よりも高い。

 90年代にさかのぼっても、宣伝部には“名物”ともいえる2人の女性ベテラン部員がいて、どこの記者からも頼られていたし、石川牧子氏が民放キー局初のアナウンス部長になった97年には取材にも行った。今回、主要ドラマ枠すべて女性プロデューサーと聞いて、一番乗りはやはりこの局だったかと感じた。

日本テレビ「世界一難しい恋」はホテル経営者のラブコメ(C)NTV
日本テレビ「世界一難しい恋」はホテル経営者のラブコメ(C)NTV

 「男女問わず、人それぞれの生き方ややり方を社会がどう受容するかという入り口に立った感じ。“女性”を大見出しにとるとイラッとされる時代に普通になってきた」。そう語るのは、大野智のラブコメ初挑戦で話題の「世界一難しい恋」(4月スタート、水曜10時)の櫨山(はぜやま)裕子プロデューサー(55)だ。「民放が女性総合職の採用を始めた2年目」の83年入社。「金田一少年の事件簿」「ハケンの品格」「きょうは会社休みます。」などのヒット作で知られる女性プロデューサーの草分けだ。

 櫨山氏は「優秀というか、女の方が根に持つんですよ」と笑う。「いいことも悪いことも執念深い。このやり方で通らなかったら別のやり方で説得してみる。いじいじと忘れない」と、女性ならではのタフさを語る。

 入社当時は、悩める女子社員の1人だったという。「会社側はそんなつもりはないのに、自分の中で『女子だから頑張らなくては』という意識があって。今と違ってテレビの現場も乱暴な時代で、どうやれば周りに認めてもらえるかと」。たまたまエレベーターで「傷だらけの天使」の清水欣也プロデューサーから「お前の企画書、おもしろいけど色気がない」と声を掛けられた。ダメ出しだったが「読んでくれているんだと、ものすごくうれしかったのを覚えている」と振り返る。

 30代後半で結婚し、40歳で出産。「子供に対してちゃんとできていない思いとか、そもそも結婚した方がいいのかとか、女性ならではの視点というのは絶対にある。逆に、結婚前にあれだけ悩んでいたのはいったい何だったんだろうという思いとか。そこを掘っていったのが『anego』や『ハケンの品格』などのOL女子モノにつながった」。

日本テレビドラマ「お迎えデス。」。主演福士蒼汰(左)とヒロイン土屋太鳳(C)NTV
日本テレビドラマ「お迎えデス。」。主演福士蒼汰(左)とヒロイン土屋太鳳(C)NTV

 福士蒼汰と土屋太鳳が幽霊との出会いで成長していく「お迎えデス。」(4月スタート、土曜9時)の高明希プロデューサー(31)は「脚本作りの現場でも、女性と男性の価値観が違うのがおもしろいんです。男性陣がかっこいいと考えるヒロインのせりふが、女から見るとあり得なかったり。すごくいいせりふがあったのにカットされていたり。お互いに『へぇー』の連続です」。

 5年前の「らんま1/2」で初めて企画が通って以来、米倉涼子の「35歳の高校生」などのヒット作を持つ。「『らんま』の時は『お前の企画なんだからお前がやれ』と言われて。男女関係なく、やってみろとおもしろがってくれる土壌がある。私も企画は相当数出していますし、折れちゃダメだという気骨を買ってもらいたい」とやはりタフだ。29歳で職場結婚したという。

日本テレビドラマ「ゆとりですがなにか」。左から松坂桃李、岡田将生、柳楽優弥(C)NTV
日本テレビドラマ「ゆとりですがなにか」。左から松坂桃李、岡田将生、柳楽優弥(C)NTV

 宮藤官九郎脚本で、岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥がそろい踏みする「ゆとりですがなにか」(4月スタート、日曜10時半)の枝見洋子プロデューサーは30歳独身。やはり「道を開いてくれた先輩方」に思いをはせる。「ドラマ班以外にも頑張っている女性がたくさんいて、つらい思いをあまりせずにこれている世代」というだけに「上層部の男性の人たちにあまりびびらないのが強み」と明るい。

 ドラマ3枠をすべて女性プロデューサーが占めたことにも「日本テレビもすごいと思う」とストレートだ。「ドラマを見てくれる方は女性の方が多い。宮藤官九郎さんというすごい脚本家を相手に、自分の武器にできるのはそこしかない。岡田さん、松坂さん、柳楽さんという豪華な3人がそろったので、自分がどれだけドキドキして、キュンとするかが大事だと思います」。

 今も現場の最前線で活躍する櫨山氏の存在感も、しなやかな若手のカジュアル感もいい感じ。彼女たちが4月クールで作るのは、いずれも明るい作品だ。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)