4月期の春ドラマが出そろった。飽和状態の婚活ドラマが変化球ぞろいで意外と楽しめるほか、視聴率が19%を超えた松本潤の弁護士ドラマ、福山雅治の月9ドラマなど話題も多い。「勝手にドラマ評」26弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた。

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フジテレビ系月9ドラマ「ラヴソング」制作発表。左から福山雅治、藤原さくら
フジテレビ系月9ドラマ「ラヴソング」制作発表。左から福山雅治、藤原さくら

◆「ラヴソング」(フジテレビ系、月曜9時)福山雅治/藤原さくら

★★★★

 恋人を失い音楽を封印した臨床心理士と、吃音で心を閉ざしている不機嫌女子の、音楽を通したラブストーリー。叙情的な回想シーンやちょっとしたユーモアを含め、2人の心の変化が丁寧に描かれた脚本に好感。過去を引きずる中年の福山にぐずぐずした色気がある上、ヒロインの新人藤原さくら(20)が当たり。もどかしい感情がむき出しの猛獣系演技や、恋心むき出しの目など、素人手法でしか伝わらない粗削りな魅力が胸に刺さる。止まっていた2人の時計が動き出す「500マイル」のフルコーラスに泣けた。立ち食いそばから「7秒の勇気」に着地する2話も情緒があり、福山のまさかの壁ドンもおもしろかった。個人的には、年の差恋愛より、傷だらけの師弟愛を希望。

TBS系連続ドラマ「重版出来!」制作発表。中央は主演の黒木華
TBS系連続ドラマ「重版出来!」制作発表。中央は主演の黒木華

◆「重版出来!」(TBS系、火曜10時)黒木華/オダギリジョー

★★★★★

 コミック週刊誌に配属された新人女子の成長。脚本は「掟上今日子の備忘録」の野木亜紀子氏。さっぱりとメンタルが自立しているひたむきな女性像が今回もすてき。昭和な女性像のイメージの黒木華が、今回は元柔道選手というスポ根娘。「特技は腕立てです!」と迷わずやってみせる元気印が意外なほどはまる。「武運を持っている人の見分け方」など柔道トリビアが効いていて、正面突破と勝負勘の合わせ技にわくわく。自信を失った大御所漫画家を逆転勝利に導く1話も、営業男子の心を動かす2話も染みた。紙とペンだけで壮大なドラマを生み出す漫画家たちの孤独も尊い。「重版出来」は、好評につき増刷を意味する出版用語。自分の仕事が誰かに伝わる喜びは、どんな仕事でも同じ。

◆「僕のヤバイ妻」(フジテレビ系、火曜10時)伊藤英明/木村佳乃

★★★

 妻を毒殺しようと帰宅すると、タイミングよく誘拐されていた。ラッキーに喜ぶのもつかの間、状況証拠から疑惑の夫となり疲弊していく。デビッド・フィンチャー監督の「ゴーン・ガール」に酷似しているとネットで話題だが、1話は映画にはない身代金2億円の攻防が軸になっていて、展開に次ぐ展開。伊藤英明が走りまくるスピード感満点のアクションミステリーとして楽しめた。「ゴーン・ガール」の亜種だとしても、黒幕だった妻の異常な素顔というストーリーのほとんどを2話までにやってしまい、逆に3カ月もサスペンスがもつのか気になる。夫への支配がモンスター化する妻と、2億円を奪還したい夫の殺意みなぎる夫婦生活。昔の大映ドラマみたいなノリになってきた。

◆「世界一難しい恋」(日本テレビ系、水曜10時)大野智/波瑠

★★★★★

 鈍感でひねくれ者の34歳ホテル経営者が、遅すぎる初恋にてんやわんやのラブコメディー。主人公の魅力、会話の面白さともにずば抜けの金子茂樹ワールド。大野智はラブコメ初挑戦。照れ屋でマイペースな持ち味がこの役にぴったりで、「俺は女に嫌われているのか?」の直球に噴いた。思わぬ片思いによろめく姿が和製マイケル・J・フォックスみたいで申し分なく、怖い乳母みたいな秘書小池栄子と名コンビ。「俺は変なのか?」「変ではありません。器が小さいのです」みたいなやりとりを何時間でも見ていたい。小池栄子による女性目線の恋愛指南が、男性目線の恋愛指南を描くTBSの藤木直人と局をまたいで対になっている、今期のミラクル。

テレビ朝日系連続ドラマ「グッドパートナー 無敵の弁護士」制作発表。左から竹野内豊、松雪泰子
テレビ朝日系連続ドラマ「グッドパートナー 無敵の弁護士」制作発表。左から竹野内豊、松雪泰子

◆「グッドパートナー 無敵の弁護士」(テレビ朝日系、木曜9時)竹野内豊/松雪泰子

★★★★

 結婚生活は失敗したが、弁護士として組めば無敵。いがみ合う名コンビの痛快リーガルドラマ。ハッタリ屋なのか戦略家なのか、にやけた二枚目半がチャーミングな竹野内豊と、事務所の稼ぎ頭で鼻っ柱の強い松雪泰子が元夫婦として絵になる。ロジカルな主導権争いが、いつの間にか「パパ」「ママ」と呼び合う痴話げんかになっている会話劇も息ぴったり。足並みがそろった時の2人の戦闘力にわくわくした。企業法務専門のビジネスロイヤーとあって、著作権や不当解雇など、扱うテーマは身近。小さい反訴で貧乏依頼主を勝利に導く1話は、スタイリッシュな2人の人間味がよく分かった。ライバル事務所や敵企業を分かり安い悪代官ぶりで描くのは「ドクターX」のこの枠っぽい。

◆「早子先生、結婚するって本当ですか?」(フジテレビ系、木曜10時)松下奈緒/貫地谷しほり

★★

 小学校教師として充実し、職員室は和気あいあい、実家暮らしで両親とも仲が良く、結婚にも特にあせっていない34歳独身女性。「それ相応に幸せだが、時折ふとさみしくなる」というぼんやりしたテーマだけで連ドラにするのは無理があるのでは。婚活ドラマは飽和状態。よそが切り口に頭をひねる中、職員室で恋バナとか、合コンでおばさん扱いされてヘコむという内容ではしんどい。原作はブログの4コマ漫画。ほっこりした日常の切り取りなのだから、サザエさんみたいな短編パターンで見せてもらった方があるあるを共感できたかも。教師ドラマ、婚活ドラマ、ホームドラマがひとつのパッケージに。

TBS系ドラマ「私結婚できないんじゃなくて、しないんです」完成披露試写会。中央は主演の中谷美紀
TBS系ドラマ「私結婚できないんじゃなくて、しないんです」完成披露試写会。中央は主演の中谷美紀

◆「私、結婚できないんじゃなくて、しないんです」(TBS系、金曜10時)中谷美紀/藤木直人

★★★★

 高根の花から転落した39歳女性医師が、オレ様料理人のスパルタ婚活指南に入門。「そこの女、お前らの考えは根本から間違っている」。ドSな藤木直人がカメラ目線で説教してきて、見たことない婚活ドラマに胸躍る。「美人、キャリア、アラフォーの三重苦」「ブサイクな女は許すがつまらない女は許さない」。男目線に特化した超理論の数々が痛快で「10人の男に好かれる方法」など話がどれも実用的。キレながらも門をたたく中谷美紀のボロボロな奮闘に共感できる。アラフォーが20代と同じことやってどうするという毒舌であって、この男自身にアラフォーをバカにする気はないのも気が利いている。

◆「お迎えデス。」(日本テレビ系、土曜9時)福士蒼汰/土屋太鳳

★★★

 ドライな理系男子と、行動派の熱血女子が、幽霊をあの世に送るバイトでコンビを組む。突然霊が見えるようになった理系男子の科学的好奇心が自然に描かれ、実験感覚で初仕事を引き受けるまでがスピーディーで分かりやすい。マンガ原作らしく、死神とのコンビネーションや、霊界のセクショナリズム、「49日を過ぎると悪霊化」のCGなど、見せ場が映像的。出てくる幽霊のエピソードに切ないほろりがあり、福士蒼汰が、霊に憑依されることで親心を知ったり、女心を知ったりと成長していく。ポップな作風に「生きていくとは何か」がきらめくファンタジー。ティーン向け、ファミリー層向けのこの枠に合う。土屋太鳳の太ももが美しいこと。この足でタイキックされる福士くんは役得。

◆「99.9-刑事専門弁護士-」(TBS系、日曜9時)松本潤/香川照之/栄倉奈々

★★★

 刑事裁判の有罪率は99・9%。残り0・1%の逆転に挑む若手弁護士の活躍。日曜劇場なのでもう少し本格路線かと思っていたが、ティーン向けっぽい路線。接見、現場検証、聞き込みなど精力的に動く主人公に応援しがいがあり、打算的にいい仕事をする香川照之とのコンビネーションも軽快。防犯カメラを覆す1話が少年探偵団レベルで引いたが、正当防衛の真相を暴く2話は楽しめた。日本警察のレベルがこんな描き方だと「99・9%」をひっくり返す迫力が根底から揺らぐ。松潤の耳ポーズが号泣県議っぽい謎。ひらめいて耳がスポンという音に、一休さんの「チーン」を思い出す。多すぎる登場人物、突然の料理コーナーはちょっと苦手。2話の視聴率は19・1%。春ドラマを独走中。

フジテレビ系連続ドラマ「OUR HOUSE」制作発表会見。右上から時計回りに、山本耕史、芦田愛菜、加藤清史郎、シャーロット・ケイト・フォックス
フジテレビ系連続ドラマ「OUR HOUSE」制作発表会見。右上から時計回りに、山本耕史、芦田愛菜、加藤清史郎、シャーロット・ケイト・フォックス

◆「OUR HOUSE」(フジテレビ系、日曜9時)芦田愛菜/シャーロット・ケイト・フォックス

★★

 復活した日曜9時枠に「マルモのおきて」の芦田愛菜ちゃんが凱旋、ダブル主演はシャーロット・ケイト・フォックス、脚本は野島伸司氏、主題歌はオフコースの「愛を止めないで」。期待したものがかみ合っていないように感じられた。母親を亡くした4人姉弟と、新しい米国人ママのバトル。愛菜ちゃんが癖の強いしゃべり方をしている上、昭和っぽい野島脚本とリズムが合わないのか、セリフが聞き取りにくい。カタコトのシャーロットと合わせ、ホームドラマらしい茶の間の口げんかが頭に入ってこなかった。「ひとつ屋根の下」(93年)の四男坊だった山本耕史がパパ役で登場。妻の臨終に病院の屋上でサックスを吹くキャラクターがすごい。

◆「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系、日曜10時半)岡田将生/松坂桃李/柳楽優弥

★★★

 競争社会に放り出されたゆとり世代のゆとりのない現実を宮藤官九郎ワールドで描く。ヘタレ男子役が板につく飲食業岡田将生の奮闘、ストレス過多でおいおい泣く教員松坂桃李、「おっぱい」の五段活用がおもしろすぎる風俗業柳楽優弥。演技力抜群の3人によって、上からも下からも浮くゆとり第一世代の悲哀が立体的に。散発的に爆笑シーンはあるものの、全体的にかなりシリアスでびっくり。2話はブラック企業で死を選んだゆとり世代のほか、上司に土下座を強要するゆとりモンスター。バブル世代と違い、扱う相手がデリケートゆえ、コメディーとして全体的に跳ねないのは好みが分かれそう。月曜への活力に、という枠のコンセプトを軽く無視しているクドカンが面白い。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)