7月期の夏ドラマが出そろった。8月にリオ五輪が控える今期は、スタートや放送回数などイレギュラーな編成も多い。ラブストーリー、お仕事もの、サスペンス、学園ドラマなどジャンルは幅広いものの、中身も視聴率も苦戦気味な印象だ。「勝手にドラマ評」27弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた。

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フジドラマのPR会見で。左から三浦翔平、桐谷美玲、山崎賢人、野村周平
フジドラマのPR会見で。左から三浦翔平、桐谷美玲、山崎賢人、野村周平

◆「好きな人がいること」(フジテレビ系、月曜9時)桐谷美玲/山崎賢人/三浦翔平/野村周平

★★

 恋を夢見る女子が、湘南のイケメン3兄弟とひと夏の共同生活。よくある設定をコピペ、映画「ヒロイン失格」で当てたコンビをコピペ、山崎賢人のオレ様キャラや三浦翔平の頭ポンポンなど、他局が当てたキャラをコピペ。コピペ世代の脚本についていけない。役者の自意識や向上心が報われないのは気の毒に見える。「いつ恋」「ラヴソング」と意欲作が2作連続でコケてしまった月9。視聴率恐怖症なのか、目標を「SNSの反響」という別のところに置き、5分ごとに「腕グイ、キター」「腹筋萌え~」とツイートネタを提供する作風に。スマホの指も止まるほどのドラマが見たい派にはさみしい。JK層限定、ソーシャル視聴派限定の戦略は成功するか注目。

◆「せいせいするほど、愛してる」(TBS系、火曜10時)武井咲/滝沢秀明

★★★

 不倫か純愛か。ティファニー副社長と部下の禁断の恋。「風邪なんて俺にうつせよ」とキス、お姫さま抱っこから靴はかせてくれて「足、きれいだよ」。スマホ恋愛ゲームのような赤面の世界観を、タッキーと武井咲がせいせいするほど振り切って演じる。最近の恋愛ドラマにありがちな少女漫画ぜりふのパッチワーク系だが、リミッターをぶち破ろうとするガッツは買いたい。笑う方向性で見るとけっこう楽しめるし、もっとただれた関係でもいいくらい。連ドラで初めてティファニーが全面協力。駅前でビラを配るティファニー、お客さまにタメ口をきくティファニーが斬新すぎる。見せ場で流れる聖子ちゃんのバラードが、手際の悪い脚本をリカバー。

ドラマ「ON」の制作発表で記念撮影する、左から要潤、原田美枝子、波瑠、渡部篤郎、林遣都
ドラマ「ON」の制作発表で記念撮影する、左から要潤、原田美枝子、波瑠、渡部篤郎、林遣都

◆「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」(フジテレビ系、火曜10時)波瑠/横山裕

★★★★

 内藤了の人気小説をドラマ化。他人に共感する心を持たずに生まれ、「殺人者と自分の違い」が知りたくて警察官になったヒロインのスーパー記憶力捜査&自分探し。猟奇ものの傑作「沙粧妙子・最後の事件」(95年、主演浅野温子)とつい比べてしまうけれど、凄惨(せいさん)な死体の造形や、1話での篠田麻里子の迫真の殺され方など、表現に気を使う今の時代にかなり頑張っている印象。夢で殺人犯と語らうシーンや、死体をじーっと見る波瑠の大きな目、精神科医のプロファイリングなどもサスペンス的。3話からパターンが単調なのが気になる。闇キャラの相棒、横山裕くんが女相手にフルテンションでキレたり犯人を半殺しにしたりの悪目立ちなのは好みが分かれそう。

◆「家売るオンナ」(日本テレビ系、水曜10時)北川景子/工藤阿須加/仲村トオル

★★★★

 「私に売れない家はありません」。天才的不動産屋、三軒家万智の超絶営業。いちいち目をむいて命令する北川景子の鉄仮面キャラが面白く、「泣けば家が売れるんですか」「子供だからって甘えている場合ではありません」と、客にも同僚にもスパルタな営業哲学に見入る。常識やきれいごとを破壊しながら進むドライな売買に真の幸せ。引きこもりの解決など考えず「100歳まで安心してひきこもれる家」をマッチングした2話は目からうろこだった。幸せの形は人それぞれ。不動産あるあるをうまく使った落としどころが新鮮で、この人の次の一手に興味が沸く。何か心に残るわけではないが、見ている間は大いに笑える。イモトのキャラが騒々しく流れを止めるのが残念。

◆「はじめまして、愛しています。」(テレビ朝日系、木曜9時)尾野真千子/江口洋介

★★★★

 「家政婦のミタ」「偽装の夫婦」などトリッキーな主人公目線で家族を描いてきた遊川和彦氏が、特別養子縁組制度をテーマに直球勝負。ピアニストとサラリーマンの夫婦が、身寄りのない5歳の男の子と家族になるまでを描く。才能と子作り年齢の手詰まり感を尾野真千子がむすっとみなぎらせ、5歳児に対応できないイライラがリアル。法的にクリアすべき壁の多さや必ず表れる問題行動の数々。「帰りの橋をたたき落とす覚悟」が問われる世界とは。家族ドラマが苦手なのでひるむが、頭でっかちな妻と、ポジティブ単細胞な夫がでこぼこな相性で引っ張ってくれるので、笑いとともに楽しめる。ピアノが起こす出会いと奇跡。最初の1歩が「ドレミの歌」というサウンド・オブ・ミュージック。

フジテレビドラマ「営業部長 吉良奈津子」の舞台あいさつを行う松嶋菜々子(中央)ら
フジテレビドラマ「営業部長 吉良奈津子」の舞台あいさつを行う松嶋菜々子(中央)ら

◆「営業部長 吉良奈津子」(フジテレビ系、木曜10時)松嶋菜々子/松田龍平

★★★

 3年の育休明けという壁に挑む42歳女性営業部長の奮闘。CM制作部署のエースが、営業に配置転換されての復職。「3年も休めて女はいいねえ」「女性管理職のお飾り」。男性陣のレベルがトホホだが、ちやほや慣れが抜けないヒロインのお花畑もトホホで、どっちもどっちな味わい。「泣きごと言えばお金が集まるわけ?」。切り替えの早い行動力は好感が持てるだけに、世間知らずな義母が出てくると橋田寿賀子風、変なサスペンス要素を持ち込むシッターが昼ドラ風という散らかり感が残念。配置転換で頭を下げることを知った元お姫さまの成長という一点でシンプルに応援したかった。ヒロインのオフィスファッションがすてき。

TBS系ドラマ「神の舌を持つ男」の制作発表会見を行う主演の向井理(左から2番目)ら
TBS系ドラマ「神の舌を持つ男」の制作発表会見を行う主演の向井理(左から2番目)ら

◆「神の舌を持つ男」(TBS系、金曜10時)向井理/木村文乃/佐藤二朗

★★

 舌に乗せたものの科学成分が分かる男が、旅先の温泉地で事件解決。「ケイゾク」「TRICK」「SPEC」の堤幸彦ファンとしては、内輪だけが楽しそうな世界観に乗れなかった。向井理が温泉で女性の背中を洗う「三助さん」とか、火サスマニアで1時間ヒステリックに騒ぐ木村文乃とか、悪ノリキャラじゃない俳優さんたちが空回りでしんどそう。「事件の謎はこの舌が味わった」と舌をどアップにする映像も生理的に無理。理系とオカルトの調合、闇と笑いのコンビネーション、女と男の迷コンビの3点セットで堤ワールドを見たい派なので、ゆるっと脱落する。

テレビ朝日系ドラマ「グ・ラ・メ!~総理の料理番~」をPRする剛力彩芽
テレビ朝日系ドラマ「グ・ラ・メ!~総理の料理番~」をPRする剛力彩芽

◆「グ・ラ・メ!~総理の料理番~」(テレビ朝日系、金曜11時15分)剛力彩芽/滝藤賢一/高橋一生

★★★★★

 「官邸料理人」に25歳の女子シェフが就任し、政権を料理で救う。「信長のシェフ」と「民王」を合わせたような、この枠らしい軽妙かつ大胆な快作。孤立していても、1人で徹底した掃除から始めるヒロインのまじめさに信頼が置けて、剛力彩芽も役になじんでいる。「冷めたスープ」と酷評される総理をスープで救った1話は、この人の戦い方がよく分かる回だった。脇が滝藤賢一、高橋一生、小日向文世、中尾彬という、空母みたいな安定感。食えない魅力の小日向総理、えたいの知れない滝藤秘書官に加え、敵役の総料理長、高橋一生の不敵な流し目にわくわく。エンディングのダンスリレーで剛力彩芽ちゃんだけガチダンスなのと、料理前に髪を触るのは勘弁してほしい。

◆「時をかける少女」(日本テレビ系、土曜9時)黒島結菜/菊池風磨/竹内涼真

★★

 定期的に映像化される筒井康隆のSF小説の金字塔。恋心が美しかった原田知世版(82年)や、元気印で青春の疾走感を描いたアニメ映画版(06年)のような、その時代らしい「時かけ」を期待したけれど、便利にタイムリープしまくるヒロインが、髪切り直してイエーイ、みんなで過去へ行って演劇するぞイエーイ、みたいなノリに面食らう。深町くんがこの時代にとどまる理由も「恋がしたい」という魔改造で、いちゃいちゃした青春ドラマのテイスト。SFジュブナイルの極意である喪失感や幻影感覚をきちんと描いた方が、視聴率の急落を防げたかも。2時間がベストの内容を全5話で描く苦労もありそう。

◆「仰げば尊し」(TBS系、日曜9時)寺尾聰/多部未華子/真剣佑

★★★

 弱小吹奏楽部が全国コンクールで奇跡を起こすまでを描く学園ドラマ。80年代の実話を描いたノンフィクションを、「ROOKIES」の監督と脚本家が不良グループの更生ものとして脚色。異分子の加入による化学反応を楽しみにしていたら、熱血教師との衝突や厄介な先輩のくだりを延々とやっていて、2話を終えても音楽室にたどり着かない。不良の事情や大暴れは入部させてから描けばいいことで、音楽を軸にしてくれないと「表参道高校合唱部」の不良バージョンにも「ROOKIES」の吹奏楽部バージョンにもならない気がする。「先生、見えていますか」と娘が指揮台に立つオープニングを見れば、最終回の感動は約束されているだけに、早く音楽を。

◆「HOPE~期待ゼロの新入社員~」(フジテレビ系、日曜9時)中島裕翔/遠藤憲一

★★★★★

 タイトル通り、期待ゼロで見たら今期イチオシだった。プロの囲碁棋士の夢を断たれた青年が、訳あって総合商社で働き始める成長物語。ジャニーズのスーツ男子、中島裕翔がまっさらな新入社員役に似合っていて、情けない自分への悔し涙や、ささやかなうれし涙に共感できる。ぐずぐずした1話にはノレなかったが、正規採用をかけたプレゼン試験の2話は「ここで逃げたら何もない」というひたむきさが伝わる傑作だった。瀬戸康史、山本美月、桐山照史ら同期のキャラ分けもあざやかで、今後ぶち当たる壁の数々を応援したくなる。韓流ドラマ原作には珍しく恋愛要素がないのもすっきりしていて、山本美月が男社会でどう踏ん張るかも楽しみ。普通の人を演じられる俳優、普通の人のドラマを描ける制作は貴重。

◆「そして、誰もいなくなった」(日本テレビ系、日曜10時半)藤原竜也/玉山鉄二/二階堂ふみ

★★★

 名前とパーソナルデータを乗っ取られて犯罪者にされた藤堂新一の10日間の戦い。自身が開発したデータ削除システムに首を絞められ、警察や謎の組織に追われまくる。登場人物全員が怪しいジェットコースターサスペンスは夏ドラマの中でも異色の存在感だが、際限なく人数が増える展開に2話で面倒くさくなってしまった…。毎週1人ずつ可能性をつぶしてくれた方が「やっぱり」「まさか」と謎解きを楽しめたのだけれど。怪しさの表現が、影でニヤリの一辺倒なのもしんどい。オリジナル脚本なので犯人は最後まで分からない。もはや誰が犯人でも納得で、最終回だけ見ればいい気もする。追い詰められて叫ぶ男が日本一うまい藤原竜也。「えっ??」だけで七色の感情表現がお見事。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)