メダルラッシュに沸いたリオ五輪。興奮を盛り上げてくれたのは、選手たちの生き生きとしたコメントだった。カメラに向かってメダル獲得の自信を語り、喜びや悔しさを率直に語った。特に、4年後の東京五輪の中心となる若手選手たちの語録がカラフル。定型文ではない言葉のパワーを、競技とともに頼もしく見た。

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 大会前半戦では、競泳の萩野公介(22)と瀬戸大也(22)の同級生ライバルが生き生きとしたコメントを聞かせてくれた。金メダルを争った400メートル個人メドレーは、萩野が金、瀬戸が銅。レース直後のインタビューに並んで登場した。

 「大也が予選からいい泳ぎをしていたので、僕も負けないようにいかないと勝てないと思った」(萩野)「公介が4年間みっちり頑張ってきた成果だと思うので、次の東京五輪では自分もみっちり準備してワンツーフィニッシュしたい」(瀬戸)。仲良しだが、勝負ではライバル心を隠さない言葉のやりとりがかっこいい。国際試合慣れしている上、生まれた時から動画慣れしている世代。決まりごととして普通にインタビューエリアにやってきて、自分の言葉で喜びや悔しさを語れるスキルが頼もしい。

 20年くらい前の選手コメントのトレンドと比べると、隔世の感がある。当時は「楽しむ」というキーワードが五輪選手に大流行していた。プレッシャー対策、マスコミ対策の呪文という感じで、ピリピリしたムードと「楽しむ」のギャップを今でも覚えている。

 00年のシドニー五輪女子マラソンで、金メダルの高橋尚子が「とっても楽しい42・195キロでした」と、究極の「楽しむ」をケロッとやったあたりから、定型文としての「楽しみたい」は下火になっていったように思う。続くアテネ五輪では、競泳北島康介の「チョー気持ちいい」や、柔道谷亮子の「田村で金、谷でも金」、男子体操の「栄光への架け橋」の実況など名言ぞろい。競技の強さをコメントが反映する時代になった。ここ数年は、家族、支えてくれた人、関係者などへの感謝がトレンドだったが、今大会は、それは当たり前のこととして、本題にインタビュー時間を割いてくれるアスリートが多かったように感じる。

 若手のコメントに話を戻すと、しびれたのは体操加藤凌平(20)の敗戦の弁。個人総合を11位で終え、「実力不足を思い知らされた」。団体金メダルの大功労者であるにもかかわらず、競技者としてどこまでも冷静で謙虚。「3年前の世界選手権から、僕だけちょっと置いていかれたなという感じがしていて。取り残されないようにもっと実力を上げないと」。負けた直後のインタビューで、こんな胸の内をするっと明かすタフなイケメン。「課題を見つけられた」と早くも焦点が4年後の東京に合っていて、この人の今後が楽しみでしかない。

 同じ体操の白井健三(19)も安定したコメント力で知られるが、今大会では表彰台で“名言”を残して話題になった。手渡された記念品に「歯ブラシ立て?」と聞く声がしっかりマイクに拾われていて、「歯ブラシ立て」が急上昇ワードに躍り出る愛されキャラだった。

 陸上桐生祥秀(20)の勝ち気なコメントにもわくわくした。400メートルリレー予選をアジア新記録で突破し「(個人予選落ちの)悔しさをこっちで晴らしてやろうと思って走ってるんで。外のレーンの人、全員抜いてやろうという気持ちで走りました。決勝でワンランク上げられたらメダルいける」。結果、歴史的な銀メダルをつかんだのだから痛快だ。

 ベテラン勢もすてきなコメントをたくさん残してくれた。競泳女子200メートル平泳ぎで悲願の金メダルの金藤理絵(27)は「タイムは遅かったですが、最低限の目標は達成できたので良かった」と涙。金メダルを「最低限の目標」とする必勝ぶりがかっこよかった。卓球女子団体銅メダルの福原愛(27)は「足を引っ張ってばかりで、みんなに感謝しています。本当に苦しいオリンピックでした」。もらい泣きしたNHK女子アナが鼻をティッシュでふきながら原稿を読んでいたのも、ある意味名場面だった。

 「初戦でここまできれいに負けると、競技に対する未練もなくなった」とさばさばしたフェンシング太田雄貴(30)もいれば、4連覇を逃して「取り返しのつかないことになってしまった」と大号泣するレスリング吉田沙保里(33)もいる。「たくさんの方に応援していただいたのに銀メダルで終わってしまい申し訳ないです。ごめんなさい」。謝る話ではないと思うが、日本選手団主将の責任を感じてわんわん謝る姿に個性がにじんで、大会後半のハイライトとなった。

 血のにじむ努力をしたのに明暗が分かれてしまうところに、オリンピックの共感と感動がある。次は誰がどんな言葉を聞かせてくれるのだろうか。選手同様、気持ちは早くも4年後の東京である。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)