築地市場の豊洲移転問題が大きな注目を集める中、生放送スキルを持った専門家コメンテーターたちに出演依頼が殺到し、各局のはしご出演が常態化している。午後の3番組に“同時出演”していた売れっ子もいた。手間のかかる新規発掘より、既存のコメンテーター争奪戦にシフトしてしまうワイドショー界のしんどい事情があるようだ。

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 お行儀の悪さで注目してしまうのは、フジテレビ午後の「直撃LIVEグッディ!」。建築エコノミスト森山高至氏や、政治アナリスト伊藤惇夫氏、元都庁職員の佐々木信夫氏(中大教授)ら、TBS「ひるおび!」終わりのコメンテーターを赤坂からそのまま移動させているようなキャスティングが目立つ。「ひるおび」が出した帰りのタクシー券で台場へ来るよう指示し、TBSから「出演者の交通費くらい自前で持て」と激怒されたといううわさ話も伝わってきて、現場はドタバタのようである。

 「グッディ」の場合、自局の昼番組「バイキング」からコメンテーターを連投させるパターンも多い。ある日は政治ジャーナリスト鈴木哲夫氏、ブロガー都議こと音喜多駿議員、タレント土田晃之の3人がバイキングからそのままグッディにいた。さすがに土田が「グッディって、バイキング流れが多すぎませんか」と真っ当なツッコミを入れていたが、キャスター陣は「フジテレビはチーム一丸ですので」(倉田大誠アナ)「うまいこと言うね」(安藤優子キャスター)とスルー。バイキングがトークバトルという活路を見つけて踏ん張っているのと比べると、意識の差を感じてしまう。

 「グッディ」の裏、TBS午後の「ゴゴスマ」は、専門家をはしごさせる努力も涙ぐましい。名古屋のCBC制作とあって、「ひるおび」と「グッディ」で東京にいる森山氏を中継で結ぶチカラわざだった。

 スタジオのほとんどがバラエティータレントのため、中継を出してでも専門家を確保したい事情がある。先日は、政治心理学の川上和久氏が1時間ぶっ通しで電話出演。声とスタジオのクロストークという、ラジオみたいな展開になっていた。よく見る専門家勢がこの番組では解説ボード上で“総出演”しているのも独特の味わいがある。

 コメンテーターかぶりについて、ベテラン民放プロデューサーは「今年は国立競技場問題、東京五輪エンブレム問題、舛添問題、都知事選など、とにかくでかいネタが次々と起きたことが大きい」と語る。「30分や1時間の長尺コーナーが連日続くネタとなると、『けしからん』というタレントのガヤだけでは限界がある。建築や都政や薬学など、きちんと解説できる人の存在が不可欠」。

 専門家主義の「ひるおび」の視聴率が4年連続同時間帯1位となり、他局がひるおびスタイルを意識し始めたことも、コメンテーター争奪戦に拍車をかけている。実際、ひるおびのエース勢が各局で重宝がられている印象だ。民放プロデューサーは「STAP細胞の時も科学コメンテーターかぶりがよくあった。生放送に対応でき、的確にコメントできる人に出演依頼が集中するのは仕方がない。本来は各番組が発掘してカラーを打ち出すのが理想だが」と話す。

 ワイドショーに限らず、報道機関にとって専門家、コメンテーターの発掘は常に最優先事項だが、経験上これが意外と難しいのだ。大学や研究機関などの人名録からこつこつあたるのが基本だが、その道の第一人者であるのと、解説力は別の話だったりする。受け手をイメージできない人、そもそもマスコミお断りの人など、空振りの連続だ。そもそも「いてほしい時に連絡がつく」「最低でも留守電に折り返してくれる」ことが大事で、この身勝手に対応してくれる優秀な人となると、かなり限られてくる。

 生放送のワイドショーとなれば発掘はさらに手間がかかりそう。同プロデューサーは「新聞や雑誌をチェックし、実際に会いに行く。お任せできると思って出演していただいたら不発だった、という失敗は何度も経験している」。いい人材はあっという間に他局に共有される。「一本釣りしたはずの人材を横取りされるのは面白くはないが、テレビ業界ではお互いさまなところもある。要は各番組の節操の問題だと思う」。

 制作現場の節操はさておき、売れっ子コメンテーターたちは今日も各局で奮闘中である。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)