SNSがヒットのカギを握る時代、テレビドラマの制作発表も様変わりしている。一般客に応援ツイートを拡散してもらう「完成披露試写会&舞台あいさつ」のスタイルが急増し、俳優たちが客席バックに看板を持つ無個性な写真があふれ返っている。一方で、脱マンネリの試みも出始め、テレビ局も、報じる媒体側も、変化についていくのに必死である。

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 数年前から定着してきた試写会&舞台あいさつのスタイルだが、「逃げ恥」ブーム明けの1月期はいよいよ勢いが増している。

 「逃げ恥」で当てたTBSは、後番組の火曜10時「カルテット」、金曜10時の「下剋上受験」、日曜9時の「A LIFE~愛しき人~」と、プライム帯3枠すべてこの形式。フジテレビ「嫌われる勇気」(主演香里奈、木曜10時)、日本テレビ「視覚探偵 日暮旅人」(主演松坂桃李、22日スタート、日曜10時半、初回10時)など、SNS世代をターゲットにしている作品は軒並みこの形を選んでいる。

 ドラマ関係者によると、試写会形式が引っ張りだこの理由は主に3つ。「SNS効果」「アンケート」「スポンサー対策」だ。

 ●SNS効果

 応募者の多くは出演者のファンであり、「かわいい」とか「最高」とか、事前に好意的なメッセージをネット上に拡散してくれる効果がある。小学生とその保護者限定で行った「下剋上受験」や、医療関係者限定で行った「A LIFE」など、共感を拡散してもらう限定試写会も同様だ。ツイートが分散しないよう、会場でタグがアナウンスされるのも最近の流れ。「#逃げ恥」のタグが大当たりした10月期の「逃げるは恥だが役に立つ」は、試写会終了後から「エンディングで踊るガッキーがかわいい」とツイートが集中し、ブレークに大貢献した経緯がある。

 ●アンケートの回収

 宣伝マンによると「反応がその場で分かる上、『かったるい』と指摘されたシーンを完パケ(編集済みの完全パッケージ)から削るなど、手直しの参考になる」。実際、「A LIFE」の試写会では、担当プロデューサーが客席に「意見を反映させて初回放送に臨みたい。皆さんはドラマの一員です。厳しい意見も書いてほしい」と訴えた。米ハリウッドが、公開前に何度も覆面試写会を行ってシーンを変えたりするのと同じ。アンケート用紙と引き換えに番宣グッズをくれたりするので、観客も熱心に書いている。

 ●スポンサー対策

 バブル後の予算削減と、若者のテレビ離れが重なって以降、民放の本音はずっと「制作発表会見不要説」である。新聞雑誌のベタ記事扱いでは費用対効果が薄く、ネット媒体がじゃんじゃん速報してくれる時代になっても、1ケタ視聴率では効果が不明なためだ。ドラマ関係者は「スポンサーと芸能事務所の意向を考えればやめるわけにもいかない中、試写会形式は都合がいい。ホテルの宴会場より試写会場は安上がりで、SNSやアンケートもアピールできる。現状ではベストな形だと思う」。

 目下のジレンマは、進行と写真のマンネリ化だ。「タレントと一緒に映った」という感動や特別感をSNSに反映させたいとはいえ、客席をバックに俳優陣が看板を持って立つ、という定番の絵作りばかり。会見の内容も、進行係のアナウンサーが無味無臭な質問をいくつかして終了。作品の世界観がにじむフォトセッションや、頭記事を張れるコメントを競った時代と比べると、写真もトークも無個性に見える。

 そんな中、今回、異色の挑戦をしたのが、日本テレビ「視覚探偵 日暮旅人」。登壇者は主演の松坂桃李と堤幸彦監督のみ。試写後の会見に初めてLINEライブの生中継を入れ、LINEライブのゴールデンタイムである午後6時すぎに開催。マスコミのほかに、会場のお客さん100人と、ライブを見ている人25万人から質問を募り、松坂と堤幸彦監督が直接答えていった。2人が手元の液晶画面をのぞき込んだり、普段は「固くお断り」される客席からの写真撮影もOKだったり。撮影タイムのサプライズにファンも大喜びで、一斉に松坂にスマホが向けられた。進行係も「SNSにすてきなコメントを載せてくださいね」と抜かりない。

 同局では「台本に沿った質疑応答、客席バックに写真撮影のマンネリを打破したかった。もっと生でガチな面白さがあるのではないかと。出たとこ勝負のリスクを引き受けてくれた堤監督と松坂さんだから実現した話ではありますが」。LINE側との打ち合わせも相当行ったという。客席からは「松坂さん、大好きです!」「感動のあまり質問が思い浮かびません」などの“質問”もあったが、松坂は「大丈夫ですよー、何でも聞いてくださーい」と笑顔。アットホームな盛り上がりがSNSで拡散された。

 そのうち媒体を呼ぶ必要もなくなるんじゃないかというこちらの戸惑いはさておき、脱マンネリの模索は、大いにやってほしいと思う。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)