NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(日曜8時)の、各話のサブタイトルが話題になっている。「おとわ危機一髪」(007危機一発)、「城主はつらいよ」(男はつらいよ)など、名作映画や小説のタイトルをモチーフに付けられている。ニヤリを共有できる遊び心に加え、毎話のテーマやテイストの手掛かりに一役買っている。

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 1話「井伊谷の少女」はジブリ映画「風の谷のナウシカ」、9話「桶狭間に死す」はイタリア映画「ベニスに死す」、5話「亀之丞帰る」は菊池寛の戯曲「父帰る」など、ネタ元のジャンルはさまざま。チャンドラーのハードボイルド小説「さらば愛しき女よ」(11話「さらば愛しき人よ」)、ドストエフスキーの「罪と罰」(19話)など、タイトルをそのまま当てるパターンもある。綿花の栽培で財政を立て直す16話「綿毛の案」は「赤毛のアン」のダジャレだ。

 制作統括の岡本幸江チーフ・プロデューサーは「縛りやくくりを設けることで、サブタイトルのカラーを出したいと思った」。岡本氏と脚本の森下佳子氏は、朝ドラ「ごちそうさん」(13年)で「いちご一会」「今日でおわカレー」など食べ物縛りのサブタイトルをつけたコンビでもある。「井伊直虎は無名の人なので、次はどんな話か、何が起こるのかを想像してもらいにくい。内容を伝える導入として、皆さんご存じの作品のイメージをあれもこれもと全部お借りしています」。

 決めているのは岡本氏、脚本の森下佳子氏、担当演出の3人。台本打ち合わせの際にワンセットで考えているという。「まずはタイトルの魅力があって、中身がうまくからんでいたらなお良し、という感じ。今回のポイントはここだというものに、好きな作品のライブラリーをあてはめる作業です」。1話の「井伊谷の少女」は、初めて井伊の谷を見た時に「風の谷のようなところ」と感じたのがきっかけという。「少女であり、姫であり、谷を救う人」である直虎のモチーフを重ねた。

 逆に、タイトルありきで「どこかで使えないか、ずっと狙っていた」というのは、18話「あるいは裏切りという名の鶴」のネタ元タイトル「あるいは裏切りという名の犬」(04年映画)。裏切ったように見せてあえて直虎(柴咲コウ)を守っていた鶴丸(高橋一生)らしさが染みるサブタイトルとなった。直虎と寿桂尼(浅丘ルリ子)が初めて直接対決した15話は「おんな城主対おんな大名」。岡本氏は「『エイリアンVSプレデター』とか『ゴジラ対メカゴジラ』とか、メイン同士が激突する怪獣映画みたいなパターンそのままでいきましょうと」。

 サブタイトルに縛りやくくりを設ける手法は、連ドラやアニメでは昔からある。時代劇「必殺シリーズ」の「主水、アルバイトする」「主水、予算オーバーする」「主水、犬にナメられる」のような有名なパターンもあるし、「俺たちの旅」(75年、日本テレビ)は毎週「男は~なのです」の形、「ふぞろいの林檎たち」(83年、TBS)は疑問形縛りなど、作品の世界観と直結したものも多い。宮藤官九郎氏の「マンハッタンラブストーリー」(03年、TBS)は「君の瞳に恋してる」「君は薔薇より美しい」など、ヒット曲のタイトルで統一して話題になった。

 そもそもNHKはサブタイトルに何かを仕掛けるのが好き。昨年の大河「真田丸」は「船出」「決断」「策略」など2文字縛り。朝ドラ「あまちゃん」は「おら、○○」、「とと姉ちゃん」は「常子、○○する」のパターンだった。

 「直虎」は現在19話。20話以降は、「打ち合わせの場で決まらず宿題にもつれ込んだ」サブタイトルも続々と登場するという。ちなみに、21日放送の20話は「第三の女」です。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)