7月期の夏ドラマが出そろった。7年ぶりにオリジナルメンバーが再集結した「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」などの話題作もあるが、全体的に視聴率も見ごたえも夏枯れ気味。当欄7年目で初の満点なしとなった。「勝手にドラマ評」31弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(定期シリーズものは除く)。

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フジテレビ月9ドラマ「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」
フジテレビ月9ドラマ「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」

◆「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」(フジテレビ、月曜9時)山下智久/新垣結衣

★★★☆☆

 オリジナルメンバー5人が7年ぶりに再集結したシリーズ第3弾。1、2と脚本を担当した林宏司氏が5人にしっかりと命を吹き込み、それぞれの苦悩と人間ドラマが分厚かった前作でこの作品は完全燃焼したと思っていた。脚本家を変えた第3弾は、後輩の育成と、結婚・出産という人生の転機を描く。数人のキャラ変への違和感、救命シーンのセットがしょぼめ、新人たちの歯ごたえのなさなどいろいろサイズダウンしているが、医療ドラマとしての定石は踏んでいるので、初めて見る人には問題ない仕上がりかと。藍沢先生(山下)の優秀さと、無愛想な優しさが指導医となっても健在。視聴率は2話も15%超え。月9の救命には成功している。

フジテレビドラマ「僕たちがやりました」
フジテレビドラマ「僕たちがやりました」

◆「僕たちがやりました」(フジテレビ、火曜9時)窪田正孝/永野芽郁

★★★☆☆

 遊び心で学校におもちゃ爆弾仕掛けたらボンベに引火し大爆発、死者多数。どん引き高校生4人のお先真っ暗な青春。主人公のポンコツな逃亡劇が動き出す2話から面白くなっただけに、テンポの悪い1話が悔やまれる。SNSウケする「再現率」重視なのか、マンガの画力で15分で楽しめるエロ&ばか騒ぎ&集団リンチを映像で1時間15分。「家族で見られない」と茶の間が逃げて視聴率が6%台に。劇的効果を高めるためには何事もダラダラやらない方がいい。28歳で高校生役の窪田正孝がクズ役でもずば抜け。好きな子にもう会えないと思って搾り出した「1回だけやらせて」のチャラ切なさに息止まる。パイセン役の今野浩喜がとにかく神。

TBS火曜ドラマ「カンナさーん!」
TBS火曜ドラマ「カンナさーん!」

◆「カンナさーん!」(TBS、火曜10時)渡辺直美/要潤

★★☆☆☆

 夫の浮気で離婚したシングルマザーがポジティブ精神で仕事と子育てに奮闘。女を磨いて浮気相手に勝ちたいという個性やガッツが描かれた1話は面白かったが、2話は苦手だった。人のミスを勝手にかぶるのがチームプレーとか、自分のせいで悪役になった上司を上から励ますとか、こういう「いい人」「前向き」設定は逆に引いた。インスタ女王渡辺直美だけに、自撮り&投稿テクや「フォロワーのコメントに励まされて頑張れる」という本音など、演じるというより、役と渡辺直美のコラボ。実際、画角からはみ出る元気な笑顔や、メーク、ファッションなど、並みの女優には出せないインパクトは魅力的で、インスタ映え抜群。インスタやってないと疎外感がすごい。

◆「過保護のカホコ」(日本テレビ、水曜10時)高畑充希/黒木瞳/竹内涼真

★★☆☆☆

 就活で初めて社会に出た“史上最強の箱入り娘”のドタバタな自分探し。カホコの言動が幼いタラちゃんぽく、これを「過保護」くくりで楽しむコツがつかめなかった。下の名前で自分を呼ぶ、ポカン顔、画面への落書き、心の声の多用、登場人物の多さなど、苦手なもののフルコースで、逆にすがすがしく脱落。このテイストにハマる人も多く、好みで評価が割れるのはエンタメとして健全。カホコに変化をもたらす苦学生、竹内涼真が当たり。苦労をひけらかさないチャラさに男子の節度があり「飯がうまいのは労働の後だからだよ」「本当に知りたいことはネットになんか出てない」。変化に欠ける血縁パートより、若い2人の強引な成長の方が夏らしくて好き。

テレビ朝日木曜ドラマ「黒革の手帖」
テレビ朝日木曜ドラマ「黒革の手帖」

◆「黒革の手帖」(テレビ朝日、木曜9時)武井咲/江口洋介

★★★★☆

 1億8000万円を横領し銀座のママに転身した銀行員が、借名口座リストの「黒革の手帖」を武器に政財界の大物と渡り合う。松本清張の悪女キャラ、原口元子に23歳武井咲が史上最年少で挑む。派遣切り、ガラスの天井など今の時代背景がきちんとあり、地味でネクラな女がスイッチオン。スピード勝負のオンライン詐欺は見ごたえがあり、横領犯として堂々と銀行に乗り込むドSな大変身にゾクゾクした。野心のファイターだった米倉涼子版に比べ、かわいい顔して「お勉強させていただきます」とえげつない小悪魔テイストもタチが悪くていい。江口洋介、奥田瑛二ら倒しがいがある顔ぶれ。脚本は朝ドラ「マッサン」の羽原大介氏。任せて安心。

フジテレビ木曜劇場「セシルのもくろみ」
フジテレビ木曜劇場「セシルのもくろみ」

◆「セシルのもくろみ」(フジテレビ、木曜10時)真木よう子/吉瀬美智子

★★☆☆☆

 春日部在住、おしゃれとは無縁のガサツ系主婦がファッション雑誌の読者モデルにスカウトされ、新しい価値観を身につけていく。どう考えてもテーマがふた昔古く、視聴率は4・5%に。内容以前に、視聴者の声は痛々しくやせてハイテンションな真木よう子さんを心配するものばかり。春日部のガサツ主婦には「クレヨンしんちゃん」のみさえという強キャラがおり、主演がコンディションを心配されている場合ではないと思う。

TBS金曜ドラマ「ハロー張りネズミ」
TBS金曜ドラマ「ハロー張りネズミ」

◆「ハロー張りネズミ」(TBS、金曜10時)瑛太/深田恭子/森田剛

★★★☆☆

 弘兼憲史の初期のマンガをドラマ化。面倒な案件を人情とおせっかいで引き受ける「あかつか探偵事務所」の活躍。「モテキ」「リバースエッジ」などテレ東深夜枠の申し子、大根仁監督がTBSでゴールデン初進出。表通りでどんな大根ワールドが展開するか期待したが、1話が子役の涙ものという没個性なチョイスで腰が抜けた。探偵モノは雰囲気とスタイルが肝。そこを昭和の小ネタやギャグなど、言葉でくるくる回してしまっているのは残念。誰もショーケンや優作にはなれないし、「傷天」も「俺天」も「探偵物語」ももう作れない。瑛太、森田剛、山口智子のコンビネーションは完璧なので、この3人で新たな探偵スタイルをぶち上げてほしい。

◆「ウチの夫は仕事ができない」(日本テレビ、土曜10時)錦戸亮/松岡茉優

★★★☆☆

 一流企業のお荷物社員が、妻の妊娠で奮起。萌え袖のメルヘン妻、脳内ミュージカル、主演不在のしつこいシーンなど、個人的に苦手要素多め。仕事ができない原因は極端な誠実さ。仕事ができる錦戸君は、そんな主人公の悔しさ、情けなさ、報われたうれしさを素晴らしい涙目で見せてくれているだけに、場面によってチューニングが散らかる脚本がもどかしく感じる。壇蜜と佐藤隆太がヒールなようでちゃんと部下を見ていて、会社サイドは魅力的。「ウソじゃなくなる努力はしたのか」というせりふや、一流と二流の違いも納得。「しょーもねえな」「死ぬ気でやれよ」とスパルタな壇蜜と、こき使われて成長する錦戸がお仕事ドラマとして楽しい。

TBS日曜劇場「ごめん、愛してる」
TBS日曜劇場「ごめん、愛してる」

◆「ごめん、愛してる」(TBS、日曜9時)長瀬智也/吉岡里穂

★★☆☆☆

 韓流ドラマのリメーク。余命わずかな男が、母親探し&運命の恋。出生の秘密、異父弟は心臓病、血族のオルメタなど劇的要素を詰め込む韓流スタイル。「母をたずねて三千里」のいばらの道かと思ったら、1話で母親発見。正体を隠して復讐に燃え、恋しくて泣き、感情のループが忙しい。物語の中に、幸せに至らない恋愛関係や親子関係が10個くらいある。報われない主人公とヒロインが心を寄せていく過程が薄いまま、急に吉岡里帆に「えらいえらい」と頭ポンポンされた長瀬が「ひざ枕してくれ」「子守唄歌え」と甘えて泣く急展開へ。長瀬×日曜劇場で恋愛ものというこの枠の挑戦は買いたいが、よそ様のリメークではないオリジナルで見たかった。

フジテレビ「警視庁いきもの係」
フジテレビ「警視庁いきもの係」

◆「警視庁いきもの係」(フジテレビ、日曜9時)渡部篤郎/橋本環奈

★★★★☆

 地味に今期イチオシ。動物から事件の謎を解く異色ミステリー。ジュウシマツが手乗りを忘れる条件とか、ペンギンは臭いとか、動物豆知識がきちんと捜査の糸口になっていて、斬新な警察ドラマにわくわく。捜査1課から「いきもの係」に飛ばされてきた渡部篤郎と、引っ張り回す動物マニア橋本環奈巡査のズレた名コンビ。渡部相手に堂々としている環奈ちゃんと動物がかわいいし、ノートににじむ優秀さも好感。「ギョッとするよね。魚だけに」。こんな古典ギャグで笑わせる渡部のニヤニヤした生態も素晴らしい。要所要所で頼りになる三浦翔平。テンポのいい脚本、なごむBGM。日曜夜はサクッと明るいテイストが吉。シリーズ化向き。

◆「愛してたって、秘密はある。」(日本テレビ、日曜10時半)福士蒼汰/川口春奈

★★☆☆☆

 11年前の父親殺しを隠して弁護士を目指す司法修習生が、秘密を知る何者かに振り回されるあれやこれや。自らの罪を償わないまま「罪にはそれぞれ事情がある」「加害者の味方になりたい」とズレた能書きを言う主人公が闇不足。謎の脅迫者に追われるサスペンスなのか、恋人との結婚を目指す恋愛ドラマなのか、司法修習生として成長していくお仕事ドラマなのか、ジャンル不明で何が言いたいのかよく分からなかった。2話では、法律家を目指す婚約者が「法を犯してもいいほどの愛」とか言い始めた。そんなに難しく考えず、隠れ殺人者でありながらシレッと法律家を目指す男のピカレスクサバイバルで良かったのでは。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)