小野政次(高橋一生)処刑の神回ぶりに今もファンが騒然とするNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」。感銘を受けたあれこれは21日付のコラム(「『直虎』政次処刑シーンに宿る大河黄金期のDNA」)で書いたが、次回までなんとなく落ち着かないので、政次名場面を振り返り、マイベスト10を選んでみた(放送順)。

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【「どれが正解なんだろうな」「どれも正解らしいぞ」「そうなのか?」】(11話「さらば愛しき人よ」)

 井伊直親(三浦春馬)が暗殺される回。まだ運命を知らない直虎、直親、政次が井戸端で「ご初代さま」に関する幼いころのトークテーマを。おとわ、亀之丞、鶴丸に戻ったようなタメ口のひとときで、今思えば政次の穏やかな笑顔はこれが最後だった。井伊を守るため、今川の犬になることを決意した政次の「選ぶ余地などない」孤独な戦いの始まり。今川屋敷の廊下の手すりをつかむ手に必死さがにじんだ。

【コケた直虎に反射】(13話「城主はつらいよ」)

 あせって立ち上がった直虎がコケて転倒し、反射的に助けようと手が伸びる政次。敵か味方か分からないディスコミュニケーションが7週続く中、ふとした瞬間に「鶴」の一面が見えるとキュンとする。15話では、寝所の直虎の小さい悲鳴に血相を変え、警備を振り切って駆け付けようともがく場面も。ツンデレのさじ加減が分かっているありがたい脚本。

【「あいつの夢枕にでも立ち、言うてくれぬかの、亀。危うくなるゆえ、早く下がれと」】(18話「あるいは裏切りという名の鶴」)

 井戸で、亡き亀之丞(直親)に本音。誰にも明かさなかった鶴の胸の内が優しく、途方に暮れた表情が染みた。立ち聞きした直虎が「おなごだから守ってやらねばと考えているならお門違い」と宣言するのもかっこいい。ここから2人の関係がトップ&参謀として脱皮。「われをうまく使え。われもそなたをうまく使う」というこの時の約束が、政次の処刑で効いてきてクラクラする。

【「追い出しても格好はつく」】(20話「第三の女」)

 直親の隠し子を名乗る娘が登場。かつての婚約者の裏切りにぼうぜんとする直虎を、後ろから痛々しそうに見守る目が語る語る。直虎がこの娘を追い出しやすいように、武田のスパイかもとあれこれ口実をひねり出す屈折ぶりもいい。このころから、2人だけの戦略の場である囲碁が本格化。囲碁シーンは名場面の山だが、直虎の手で政次を処刑するという“最後の一手”も碁でつながっていた。

【くだらんぞ但馬】(22話「虎と龍」)

 盗賊集団のかしら、龍雲丸(柳楽優弥)が仲間に加わり、歓迎の宴。直虎がたいそう頼りにしてはしゃいでいるのを見て、いたたまれずそっと帰宅。暗い部屋でしみじみと「くだらんぞ、但馬」。いつも遠回しすぎる政次が嫉妬という恋愛感情をはっきり見せたのは初めてで、ネット上は「くだらんぞ但馬」でもちきりに。恋敵をネチネチとけん制する“足ドン”も胸躍った。

【「俺の手は冷たかろう」】(25話「材木を抱いて飛べ」)

 直虎の首が飛びそうな大ピンチ。政次が今川の犬として立ち回っている間に、直虎は時間稼ぎのために毒薬を飲んで高熱。朦朧としている直虎の枕元で「なんという無茶を」と今にも泣きそう。ほおに手を当てて「俺の手は冷たかろう」。うわ言で「政次は昔から、誰よりも冷たい」と苦笑する直虎を見て、無力な自分への苦悩がすごい。この回はテレパシー囲碁とか、名シーン多数。

【直虎のすそを踏んづける】(26話「誰がために城はある」)

 盗賊集団を助けようと頭に血が上っている直虎の着物のすそを、すれ違いざま踏んづけて制止。直虎にこんなことができるのは鶴モードになっている時の政次だけ。「お前はいったいどこの当主なのだ!」。あきれた時にたまに出る命令調も、子供時代そのままで懐かしい。この手のシーンがあるたび、ギャンギャン言われて面倒臭そうに聞いているのも笑えた。

【「地獄へは俺が行く」】(31話「虎松の首」)

 井伊家の断絶を命じる今川から、幼い跡取り・虎松の首を差し出すよう命じられ、名もなき幼い子を偽首に。土砂降りでずぶ濡れの中、青白く光る小刀が血で染まる。「さすがに」と後ずさる家臣たちに「案ずるな、地獄へは俺が行く」。偽首を抱きしめて大泣きし、経を唱える直虎も、きれいごとでは済まない美しさだった。

【井伊家再興宣言】(32話「復活の火」)

 徳川軍と合流し、長い今川の支配も終わる悲願の瞬間。計画倒産の筋書き通り、見せかけの城主となっていた政次が抜刀し「これより小野は徳川に城を明け渡し、井伊家を再興する!」「にわかには信じられぬと思うが、井伊と小野は2つでひとつ!」。これを言うために生きてきた思いの丈が震える涙声ににじんでいて、「とうに存じておりましたよ」と笑う家臣たちの優秀さも感動的。つかの間の晴れ姿が目にしみた。

【なつにひざ枕】(33話「嫌われ政次の一生」)

 逃げ延びた隠し里で、義妹なつ(山口紗弥加)とひとときの安らぎ。ともに歩いていくことを決めた片思いキャラ同士、思い出を作るように、なつのひざにごろん。直親とのサイテーな昔話で笑い合う。なつの袖から「兄上のお袖に入っていた」という直虎の白い碁石。見ないように「今はなしです」と両手で目隠しされ、素直に「はい」。この碁石が、政次が「本懐」を遂げる処刑の重要アイテムとなるのもあざやか。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)