テレビ改編で、番組の枠移動が多発している。4月と10月の改編と合わせると、今年は大小30番組近くがお引っ越し。昨秋の3本と比べるとかなり多い。「しくじり先生」(テレビ朝日)「好きか嫌いか言う時間」(TBS)など、引っ越しからわずか半年で終了するケースなどサイクルも早く、視聴者の負担も大きい。「より良い環境を求めて移住」するケースから「スポンサー対策」まで、背景はいろいろだ。

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 4月改編で「家、ついて行ってイイですか?」など10番組の引っ越しを行ったテレビ東京は、10月改編も大胆な引っ越し策に出ている。月曜8時の「主治医が見つかる診療所」と、木曜8時の「世界!ニッポン行きたい人応援団」を入れ替えるほか、水曜7時の「THEカラオケバトル」と8時の「ソレダメ!」も入れ替えた。

 枠移動の際の最もポピュラーな説明のひとつに「縦の流れと裏環境」があるが、今回の「主治医-」の移動は裏環境の典型例だ。TBSが、長年苦戦している月曜改革の目玉として、7時枠に新番組「名医のTHE太鼓判!」を編成。似たような時間のジャンルかぶりで「名医-」が押し出されてしまった格好だ。

 テレ東の縄谷太郎編成部長は「TBSさんがそういう編成をするなら、うちはあえてファィティングポーズはとらない」と表情は強気。「視聴者ファーストの立場から見れば、月曜夜に2局で健康番組というのはおかしな話。視聴者置き去りで食い合うより、逃げるが勝ちくらいの前向きな気持ち」。実際、木曜は健康番組が空いている。月曜に行く「ニッポン行きたい人応援団」も、前後の「YOUは何しに日本へ?」「世界ナゼそこに?日本人」と親和性が高く、海外シロウトさん番組の3階建てという分かりやすいタイムテーブルになったという。

 フジテレビは、木曜深夜に引っ越す「キスマイ超BUSAIKU!?」など3本の枠異動を発表。4月に「好きか嫌いか言う時間」「月曜名作劇場」の枠移動を行ったTBSは、木曜深夜の「クレイジージャーニー」を水曜深夜へ。4月に「しくじり先生」など3本を動かしたテレビ朝日は、火曜11時15分の「陸海空こんな時間に地球制服するなんて」を土曜10時枠に引っ越すなどしている。

 量も多ければサイクルも早い。中でも話題になったのが、テレ朝「しくじり先生」の終了だ。4月に月曜8時から日曜10時に引っ越したばかりで、わずか半年での終了となった。

 月曜時代に2ケタをマークすることも多かった視聴率は、引っ越し後は6%台あたりに落ち込んでいた。日テレの牙城とはいえ、日曜のプライム帯(夜7時~11時)は民放にとって銀座4丁目。ここを任せたくなるほど力のある番組だったことを考えると、他局編成マンたちが「驚いた」「他局ながらもったいない」とつぶやくのも分かる気がする。最近は内容の息切れ感を指摘する声が多かったのも事実で、テレ朝では「今後は長尺のスペシャル番組としてご覧いただく方がより面白いものを届けられる」(赤津一彦編成部長)としている。

 枠移動という戦略について、TBS伊佐野英樹編成局長は「同類の番組が裏にない、よりよい環境を求めて移住するということ」。しかし、テレビ界全体として、移住先で見違えるように花開いたという例もあまり聞かなかったりする。「改善に改善を重ねて、別の場所で活躍させたいという思いの一方で、視聴者を混乱させていいはずもない。やるならば、消極策であってはならない」と話す。

 民放関係者によると、引っ越し多発の背景には「新番組は売れない」という各局共通の事情があるのだという。「数枚の企画書だけで、数千万円のスポンサー料を投じようとする企業はそういない。特に、バラエティー番組は視聴習慣がつくまで時間がかかる。更地から家を建てても誰も来ないという恐れを考えると、既存番組のコンバートを考えてしまうのが編成の一般論」。

 特に外資メーカーはシビアだ。「極東予算は限られており、『こんな有名人がMCです』と売り込んでも、宣伝のトップが外国人だったりすると通用しない。それよりも、『○曜○時にこんな実績がある』と、視聴率推移や視聴者分布が明らかな既存番組の方がセールスしやすく、空いた枠に引っ越しの玉突きやパズル現象が起こる」。

 もちろん、高評価な引っ越しもある。各局職員にざっくり聞いたところ、日テレが4月に行った土曜9時の「ドラマ枠」と10時の「嵐にしやがれ」の入れ替えを挙げる人が多い。7時からのバラエティー3番組の縦の流れが良くなり、ドラマも9時枠より10時枠の方が収まりが良さそうという、「前向きな編成」に見えるのだという。年間視聴率3年連続3冠王の貫禄はこんなところにも。その日テレの10月改編は「ほぼ無改編」なので、引っ越しもゼロである。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)