俳優坂上忍、将棋の“ひふみん”こと加藤一二三九段ら、ここ数年のテレビの売れっ子は、元をたどると同じ番組でブレークしている。“アウトな人”の魅力に焦点を当てるフジテレビ系「アウト×デラックス」(木曜午後11時)で、人材の虎の穴として異彩を放っている。演出を手掛ける鈴木善貴ディレクター(36)に、「忖度(そんたく)なし」という人材発掘、人材活性の舞台裏を聞いた。

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 -6年前に深夜の単発で始まって以来、坂上忍さんをはじめ、加藤一二三さん、栗原類さん、高嶋ちさ子さんら、この番組でブレークした売れっ子は多いです。淡路恵子さんのゲーム通や、小柳ルミ子さんのサッカー通など、意外なジャンルで“神”になっている人をいち早く世に出したのもこの番組。

 鈴木 もともとポテンシャルがあった人たちで、僕らの手柄とは思っていません。「アウトな人をデラックスに輝かせよう」というのが番組のコンセプトで、デラックスに輝いて巣立っていく(笑い)。特に囲うこともしませんし、そのくらいの気軽さでやっています。

 -テレビを席巻する坂上さんも、振り返ればこの番組での「ブスは嫌い」発言が始まり。毒舌俳優キャラで一躍注目を集め、今の活躍へ。トンデモキャラを矢部浩之さんとマツコ・デラックスさんが広々と大笑いで受け止めていて、恐ろしく風通しのいい番組だなと。

 鈴木 痛快でしたね。「働きたくない俳優」という切り口だったのですが、独特な偏見が出るわ出るわ(笑い)。アウトとグッドは紙一重。規格外というアウトも、人間臭さとしてとらえればグッドなんじゃないかという番組の趣旨にぴったりで、紙一重を矢部さんとマツコさんが忖度なしでうまく引き出してくれた。坂上さんによると、あの発言をカットせずに使ったのはこの番組が初めてだったそうです。デラックスに輝いてくれたおかげで、今では福山雅治さんまで出てくれる番組に(笑い)。

 -ひふみんこと加藤九段も、5年前に番組でキャラが爆発した1人。キュートなルックスもマイペースなマシンガントークも、何もかもが自由すぎる爆笑回でした。藤井聡太四段の登場とともに人気も全国区になって。

 鈴木 羽生善治さんと対戦した棋譜を持参して「私が勝ってます」「これも勝ってます」という自己紹介から抱腹絶倒でしたね(笑い)。何かに秀でた人の異次元のマイペースさ。作家には到底思い付かないことをしてくるのがアウトの成功例。これはもう、いくらでもいけると。

 -シロウトさんから芸能人まで、“アウトな人”をどうやって見つけてくるのですか。

 鈴木 まずはスタッフ総出で、ネット、本、テレビなどを手当たり次第に探したり、他部署の社員が情報をくれたり。事務所が持ち込んでくれるケースもある。斉藤由貴さんみたいな、ひと目見て“アウト臭”がする芸能人は文献を徹底的に調べます。会議で週に10人くらいに絞って、実際に全員に会いに行きます。ひたすら足ですね。

 -事務所の売り込みだと、ビジネス上の偽キャラである可能性もあるのでは。

 鈴木 1時間くらい話をすると、偽物アウトは分かるんですよね。実際、会ったけどお断りさせていただくケースは半分以上あります。「収録間近なのにアウトがいない」なんてピンチはよくあります。

 -シロウトさんの場合、会ってみたらリアルにアウトだったりする恐れもありそうですが。

 鈴木 会ってくださいとお願いして、実際に会ってくれる人は、めちゃくちゃな人はいませんね。視聴率も、シロウトさんの爆発の時がいちばん高い。経験上、名前はメジャーだけどアウト性は弱い、という日和った方向性がいちばん数字が落ちる。

 -「有吉反省会」(日本テレビ)や、今月で終了する「しくじり先生」(テレビ朝日)とも違う感じ。

 鈴木 「有吉反省会」はタレント自ら「いじってください」と反省点を発表しにきますが、こちらは勝手に来させられて勝手にアウトをえぐられるドキュメンタリー(笑い)。打合わせで「私、アウトじゃないですけど大丈夫ですか」みたいな無自覚な人に出会うと、心の中で「やった」と思います。「しくじり先生」は「失敗」に特化していましたが、こちらは生き方と価値観そのものです。

 -ゲストの人、みんなポジティブですよね。

 鈴木 絵に描いたようなリア充ではないんだけれども、誰にも迷惑かけていないし、ブレなくてポジティブ。見ていると「アウトでいいじゃん」という気になってくるせいか、この番組、不謹慎そうなのにクレームが全然来ないんですよ。

 -残念ながらフジテレビ自体は低迷が続く中、こういうオリジナリティーで元気がある番組は貴重。裏の老舗ニュース番組より高い視聴率を記録することも多いですし。会社に元気がない中でバラエティー番組を作る難しさもあると思いますが、頑張って旗を振るしかないというか。

 鈴木 その難しさはずっと感じていますね。僕は入社15年目ですが、制作フロアの“やってやろうぜ感”が薄れているのは感じています。若手も個々のやる気はあるけど、結果的に誰が作っても同じものになりがち。手堅くバットを短く持って三振するくらいなら、賛否両論の中でホームランか三振かの方がいいと思う。良くも悪くも、フジの低迷に世の中も僕たちも飽きている。ヤフーニュースで読む限り、新社長は「全部白紙に戻す」くらいの勢いでやると宣言しているので、後はみんなで行動するだけです。

 -21日放送のスペシャル(午後10時から)では、ミステリー小説界の重鎮、西村京太郎さんが登場。西村さんってアウトなんですか?

 鈴木 過去最高といっても過言ではないアウトですね(笑い)。職業病がすごいんですよ。「電車に乗ったら車掌さんにまず死体の隠し場所を聞く」とか。「人を殺しにくくなった。嫌な世の中になった」って、マツコさんの殺し方まで考えてくれました。3億、5億、7億と増える収入の話から、十津川警部の気持ちを分かりたいから最終的にモテたいという話まで(笑い)。「死ぬ前にマツコさんと話したい」と出てくださったのですが、大御所はブレなくてかっこいいですよ。

 -ひふみんも出ますし、「ゲスの極み乙女。」もゲス不倫騒動以来初のバラエティー出演。

 鈴木 アウト軍団からすごい切り口の質問がバンバン飛んで、この番組だから聞けた話の数々が最高でした。アウトの極みな取れ高。アウトな人はブレません(笑い)。

 -芸能人、シロウトさん合わせてすでに約500人が出演していますが、ネタ切れは大丈夫ですか。

 鈴木 人間の数だけアウトがあるので大丈夫と言いたいですけど、アウトな人を見つけたら教えてくれませんか(笑い)。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)