古舘伊知郎キャスター(62)がMCを務める新番組、フジテレビ「モノシリーのとっておき~すんごい人がやってくる!」(金曜午後7時)がスタートした。1年で終了した「フルタチさん」の反省を踏まえた仕切り直し。他局が強いいばらの枠でも「視聴率がすべて」とアツい模索を続けている。根っからのテレビマンの胸の内を聞いた。

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MCを務めるフジテレビ系バラエティー「モノシリーのとっておき~すんごい人がやってくる!~」について語る古舘伊知郎
MCを務めるフジテレビ系バラエティー「モノシリーのとっておき~すんごい人がやってくる!~」について語る古舘伊知郎

 -今月始まったばかりの「モノシリーのとっておき」ですが、現時点の手応えは。

 古舘 まだ離陸した直後で車輪も閉じていない段階なので、手応えはまったくないですね。手応えを感じていけるように頑張らなければ。

 -金曜7時は他局に強い番組が多く、「この枠?」という驚きはなかったですか。

 古舘 そもそも1年続いた日曜の「フルタチさん」も、裏が「鉄腕DASH」「イッテQ」「大河ドラマ」という状況で、今回の金曜7時も裏環境がすごい。でも、そういうところしかないんですよ空き枠が。調子のいい枠はテレビ局側もいじらないから。僕も報道を辞めてもう1回振り出しに戻っている以上、かっこつけないで、苦しい時間帯でもまれて苦労するしかない。嫌だったらテレビを引退するしかないので。

 -まだ放送3回の段階ですが、視聴率は5%台という、ちょっと心細いスタートに見えます。

 古舘 そうですよね。民間放送、商業放送である限り視聴率は最大のものさし。すべてと言ってもいい。低空飛行から始まってしまったことは受け止めなきゃいけないとともに、一層見てもらわなきゃと強く感じます。

 -視聴率がすべてという明快さに、根っからのテレビマンなのだと実感します。「いいものを作っていれば視聴率は関係ない」という、お客さん側のせりふを口にする作り手も少なくないだけに。

 古舘 視聴率が低い番組の場合、作っている側の自己評価で「視聴率がすべてじゃない」と言うのは逃げだと思うんですよね。お店をやっていて「売り上げがすべてじゃない」なんて言ったら店を存続できない。売り上げがあった上での喜びでしょうと。確かに視聴率がすべてじゃないんだけど、それは視聴率をとった上で初めて待っている境涯。それまではやっぱり視聴率なんだと強く思う。だから何とか頑張りたい。

 -「モノシリー」は、照明デザイナーや動物写真家など、その道の第一人者にとっておきの話を聞くトーク番組。ちゃぶ台を囲む昭和のお茶の間風のスタジオセットが独特で、識者の方たちもリラックスして話しているような“ちゃぶ台効果”も感じます。あの演出はどう考えたのですか。

 古舘 僕は一切考えてない。その前の「フルタチさん」はいろいろ参画して悩んだんですけど、結果的に1年で終わってしまって懲りたので、僕が制作の中まで入って偉そうに言うのはやめて、フジテレビがセットしてくれたものの上に乗っかってみたんです。

フジテレビ系バラエティー「モノシリーのとっておき~すんごい人がやってくる!~」(C)フジテレビ
フジテレビ系バラエティー「モノシリーのとっておき~すんごい人がやってくる!~」(C)フジテレビ

 -あのお茶の間は、古舘さんが生まれ育った「東京都北区滝野川」という設定ですが、あれもフジテレビの発案ですか。

 古舘 はい。僕は正直に面白いと思って。昭和30年代くらいの、日本がオリンピックに向かっていくころの北区滝野川がモチーフなわけです。遊び心があって、超古くさいのも面白いなと。そういう時代錯誤的な空間でゲストからもたらされるマニヤックな情報も新鮮です。

 -識者ゲストは毎週3人くらいで、スケートの安藤美姫さんのようなテレビ慣れしている人もいれば、「日本一の魚屋さん」などの素人さんもいる。ディープな人にディープな話を聞く番組は「マツコの知らない世界」(TBS)や「激レアさんを連れてきた」(テレビ朝日)など内容がよりディープ化している中、どう個性を打ち出していこうと考えていますか。

 古舘 やっぱり金曜7時と考えると、激レアすぎてもね。中途半端といえば中途半端だけど、それが金曜夜7時という真ん中をねらう方策だと思うんですよ。その中で自分が何をできるかといえば、一生懸命にご案内役をやって、その人の生き方や人間性など、どう芯を食った話を聞けるかということ。愚直なやり方しかないと思っています。

 -いま振り返ると、「フルタチさん」の反省点は何だったのでしょうか。

 古舘 どの時点の?

 -いや全体的に。1年で終わってしまったことに関して。

 古舘 あ、「ふるたちさん」って「フルタチさん」の方ね。僕の人生の反省点をお尋ねかと。わはは。

 -人生じゃないです(汗)、番組の方です。

 古舘 はしょらずに書いていただけるなら2点あります。まず、ものすごい激戦区に入っていく中で、既存の大人気番組に矢を1本2本放って浮動票をいただけるくらいの革新的な企画をもってぶち当たらなければならなかったのに、そこまでのものがなかったという反省。もうひとつは、自分のエゴが出てしまったこと。スタッフと相当苦しんで企画を考える中で、収録バラエティーなのに僕は報道12年で培ったジャーナルなエッセンスを入れたくて、毛色の違うものをやろうとしてしまった。トランプ大統領が壁を作ろうとしているメキシコとの国境を見に行こうと、若いディレクターに突端から突端まで旅してもらうとか。

 -だめなんですか?

 古舘 惨憺たる視聴率でした。自衛隊の駆け付け警護が話題だった時は、番組の最後の方で急に俺が安保法制について6分くらい語ってるんですよ。日曜夜のバラエティーなのに、今考えると正気の沙汰じゃないんですよ(笑い)。食べたい弁当を東京駅の新幹線口で買おうとしているお客さんに、「これ食べなさい」とわけの分からない弁当を差し出すんですから、めちゃくちゃなことしてたなと。ちょっとフジテレビにも悪いことしました。

MCを務めるフジテレビ系バラエティー「モノシリーのとっておき~すんごい人がやってくる!~」について語る古舘伊知郎
MCを務めるフジテレビ系バラエティー「モノシリーのとっておき~すんごい人がやってくる!~」について語る古舘伊知郎

 -プレッシャーやストレスは計り知れませんが、どう発散しているのですか。

 古舘 単純です。滝野川に戻るんです、意識の一部を。一方はお台場にいるけど、もう一方は滝野川にいるという二重人格化です。落ち込んでいる自分をもう1人の自分がながめて、ちゃんちゃらおかしいとせせら笑えばいい。60過ぎまで生きられただけでも丸もうけのはずなのに何をガタガタ言っているんだと、滝野川の12歳くらいの自分が言っているようにする。ふぁーっとラクになりますよ。ある種、今後流行るヨガの一部だと思っています(笑い)。

 -報ステでの最後の日も滝野川からの中継でしたよね。ご自身の中の滝野川スピリッツって何ですか。

 古舘 よるべなき魂。滝野川って、下町のくせに由緒がない。ちょっと行けば巣鴨や池袋だけど、ほとんどの人には「滝野川ってどこ?」って話。僕が浅草育ちなら下町のアイデンティティーとか、田園調布ならボンボンとか、ひとつの色でいける感じがするんですけど、滝野川って色がない。本籍地の色がよく分からないんです(笑い)。ずーっと迷っているというか、あっちいったりこっちいったり。この歳まで生きてくると、「これだ!」と固定しない無常がとても良かったのかなと。

 -フジテレビは低迷が続いており、「めちゃイケ」が終わるという時代の転換期でもある。難しい環境で新番組を成功させなければならない中、何か方策は。

 古舘 僕が虎視眈々(たんたん)とねらっているのは、古きもの、アナクロ的なものが地上波で復活すること。他局ですが、去年「トーキングヒストリー」というのをやったんです。忠臣蔵の再現ドラマに僕が割り込んできて、実際の史実はこうだったと実況解説して。古いものを新しく仕立てていくという革新的なムーブメントをもう1回地上波に起こせないかと真剣に思っています。だから、昭和30年代の滝野川から入る「モノシリー」の演出もアリだと思う自分がいる。攻めているのか自爆しているのか分からないけど、面白いと思っちゃうんですよね。視聴率がすべてというさっきの話と矛盾しますけどね。

 ◆12月1日放送分のゲストは、絶叫マシンプロデューサー宮尾哲也氏、タカノフルーツパーラー・フルーツクチュリエ森山登美男氏、金剛組棟梁の木内繁男氏。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)