先週相次いで行われた民放4月改編説明会で、ちょっとした異変があった。テレビ東京の説明会が大いにビジュアル化、体感型化してきた。会場を特大パネルで飾ったり、新番組のVTRをドラマ風に編集したり、試食コーナーを設けたり。会議室で編成幹部が資料説明、というパターンから脱皮し「少しでも話題を」と手作りしてきた。SNS時代で改編ネタへの関心度が格段に上がった中、説明会も変貌している。

**********

 今回テレ東が説明会を行ったのは、メインスタジオの第1スタジオ。だだっ広い空間に新番組の特大パネルをいくつも並べ、「こんな番組が始まるのか」と、MCの顔や番組の雰囲気が見た目に分かる趣向だった。

 ただのポスターの拡大版ではないのも気が利いている。4月から日曜ビッグバラエティ枠で月イチでレギュラー化される「緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦」のパネルは、これまで水を抜いてきた全国21の池と、そこにいた在来種、外来種の一覧を記した日本地図。専門家も学術的価値があると評価する力作で、「このまま紙面に転用したいくらい」と、一般紙記者も群がって写真を撮っていた。

 ドラマ24「孤独のグルメSeason7」(金曜深夜0時12分)は、ラーメン店のカウンターに主演松重豊の等身大パネルを組み合わせたもの。隣に座ると松重とラーメン店にいるように見える趣向で、ネット記者たちが「SNSのネタに」と“ツーショット”を撮って発信していた。「味もネタになれば」と、作品に登場した料理3品の試食コーナーまであり、ネットやSNSウケする工夫を凝らしていた。

 各新番組の紹介VTRもひと工夫。いきなりお父さんと娘が出てきて「お父さん、大変大変」「何だ急に」。父と娘の会話の中で新番組VTRを紹介するという、まさかのドラマ仕立て。「池の水ぜんぶ抜く」の流れでバラエティー新番組を紹介すると「お父さんの髪もぜんぶ抜いちゃうか、わはは。そんなことより次はテレビ東京の経済だ」と、経済系の新番組を紹介。編成部長や担当プロデューサーによるPRに弾みをつけていた。

 説明会の変貌について、宣伝担当者は「いつもと違うことを、という狙いでいろいろやってみました」。小孫茂社長のカラーも大きい。昨夏に所信表明した「新しいことを始めたな、と言われるテレビ局でありたい」というマインドが、改編説明会にも反映された形だ。新番組VTRについて同局は「個別のものをつなげているだけでは印象に残りにくいと思い、お父さんと娘の会話に組み込んで壮大な話にしてみました」。当初はお母さんも登場するバージョンだったというが「長いと言われてカットした」と笑う

 特大パネルも「ビジュアルにした方が印象に残りそう」。低予算と戦うテレ東らしくないと思ったら、やはり「別件の再利用」という答えが帰ってきてほっこりする。改編説明会の前に行われる、スポンサー向けの広告説明会で「何か新しい趣向を」と作ったもので、「記者の皆さんにも見ていただこうと置きました。特別予算はないので、やれる範囲で頑張っています」。今まで付き合いのなかったウェブ媒体にも声を掛け、広い第1スタジオを用意したという。

 改編説明会が、誰も行かない行事だった時代を考えると隔世の感がある。年に2回、昭和から存在する古いイベントだが、ネットがない時代は、取材者は新聞とテレビ雑誌くらい。内容のほとんどは発表済みであり、担当記者として義務感で足を運ぶか、ほかの取材優先で「合本だけ送ってください」で済ませるか、というのが一般的だった。

 当コラムで初めて改編説明会について書いたのは14年9月。読み返すと「編成局幹部による地味な会見で記事になることはほとんどないが」「そもそも改編説明会とは」とあるが、ことのほか多くの人に読まれ、潜在的な需要に面食らったのを覚えている。あのへんを境に、各媒体のネット化やSNSが本格化し、発表済みのものでもどんどん記事になり、読まれる時代へ。局側にとっても宣伝の大チャンスとなり、会場を広くしたり、VTRを作ったり、局アナが進行係を務めたりと変化しながら今に至っている。

 ちなみに今回は、日本テレビ、TBS、テレビ朝日が、会議室で編成幹部が資料に沿って説明する従来型パターン。TBSは進行係が局アナだったが、日テレはほぼ無改編のため編成部長のみ。テレ朝はVTRも局アナもない伝統方式を貫いている。フジテレビは、今も昔も一流ホテルでのパーティー付きである。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)