MBSドラマイズム「スカム」(C)「スカム」製作委員会・MBS
MBSドラマイズム「スカム」(C)「スカム」製作委員会・MBS

内容も視聴率も失速気味の夏ドラマ界は、むしろ深夜0時を超える「ド深夜枠」に快作が多い印象です。視聴率はどれも1%台だったりしますが、サラリーマンとヤクザの二重生活コメディーや、サウナの人間模様、ポルノ作家と編集者の同性愛など、テーマと世界観が明快で、続きが気になる連ドラ本来の醍醐味(だいごみ)があるのです。

個人的には、オレオレ詐欺集団のダークな疾走感を描いたMBSドラマイズム「スカム」(TBS火曜深夜1時28分、主演杉野遥亮)にドはまりしています。普通の若者がいとも簡単に高齢者をだますようになる背景と、彼らも結局、上部組織にだまされているのだという二重構造に分厚い見応えがあります。

主人公の誠実(杉野遥亮)は、大卒で一流企業に就職したにもかかわらず、新卒切りで無職になったリーマン・ショック直撃世代。まじめに生きても報われない社会に見切りをつけ、詐欺の世界に身を投じます。そこでたたき込まれるのは、高齢者と若者の世代間格差。年金と預貯金をため込んで経済を循環させない勝ち組高齢者層と、割を食う若者層という不公平感を、犯罪組織がうまく突いてくるんですよね。研修が終わるころには「金持ち老人から金を奪い取る毎日に、俺の心は1ミリも痛まない」という、アンチ老人に燃える人材となっています。

MBSドラマイズム「スカム」(C)「スカム」製作委員会・MBS
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原案は、ルポライター鈴木大介氏のノンフィクション「老人喰い 高齢者を狙う詐欺の正体」(ちくま新書)。勤勉で上昇志向を持て余す若者をマインドコントロールする犯罪組織のノウハウがリアルで、「老人の死に金を社会に還元する」という義賊意識の暴走に説得力があるのです。

3月に放送されたNHK「詐欺の子」(主演中村蒼)も、同じ動機で詐欺を行う若者を描いた社会派の傑作でしたが、「スカム」は荒稼ぎと転落にフォーカスした裏社会エンターテインメント。努力、友情、勝利の男子ドラマ3点セットがまずい方向へ。序盤こそ「老害、ぶっつぶす!」のスポ根ワールドに笑えたりもしましたが、億のノルマ、怖すぎる殺し屋、仲間の裏切り、母親のまさかの参戦など報いがどんどん拡大し、人間が一番怖いというホラー感がずっしりとあります。

MBSドラマイズム「スカム」(C)「スカム」製作委員会・MBS
MBSドラマイズム「スカム」(C)「スカム」製作委員会・MBS

連ドラ初主演、杉野遥亮も起用も当たっています。才能と世間知らずのバランスが悪い「普通の若者」を生き生きと表現していて、つるつるな社会人時代、生きている実感みなぎる序盤、後戻りできず血走る中盤、親の参戦で完全に目が据わっている終盤の変化があざやか。1月期のTBS深夜ドラマ「新しい王様」でもマネーバトルに打って出る若者役を好演したばかり。清潔感にしぶとさが宿っていて、ゲスいだけではない金の魔力を表現できる人なのかもしれません。

7話の「なんか怖くて。この仕事が楽しくなってきてんだ」という到達点が不穏で、いろんなタイプの怖い人でシャレにならない大詰めにざわざわ。残り2話、主人公の突破力と闇墜ちの行方を見届けたいと思います。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)