TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」の広瀬俊朗(C)TBS
TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」の広瀬俊朗(C)TBS

TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」最終回で、トキワ自動車ラグビー部のエース浜畑(広瀬俊朗)が、君嶋GM(大泉洋)に語った言葉です。限界のヒザを抱えたまま迎えた宿敵サイクロンズとの決勝戦。「今後の選手生命」を心配する君嶋に「そんなものありません」と、引退の意志を明かした瞬間でした。シンプルな言葉に、透き通るような万感の思いが込められていて、胸が締め付けられる名場面でした。

「アストロズがここまで来れたのはあなたのおかげです。ありがとうございました」。チームにも、自分自身にも、浜畑が間違った決断をするはずがないのは、このドラマを見てきた人なら分かること。視聴者同様、動けない君嶋からぐちゃぐちゃな気持ちが伝わってくるのも切なかったですね。主題歌のサビもばっちりハマり、逆境だらけの2人がたどり着いた最高の友情シーンでした。

TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」(C)TBS
TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」(C)TBS

浜畑を演じた広瀬俊朗さん(37)は、ラグビー元日本代表キャプテン。演技未経験ながら、粗削りな魅力で物語のキーマンを力強く演じ、番組スタッフを「回を追うごとにうまくなる」「何やっても天才」と感激させています。同じ慶大ラグビー部の先輩、福澤克雄監督からの抜てき。14年、若手の台頭でレギュラーとキャプテンを外されながらもチームの“精神的支柱”として代表に残された生きざまが、選手生命と向き合いながらアストロズの精神的支柱であり続ける浜畑と重なるキャスティングです。

「前回のワールドカップ。歴史的勝利を収めた南アフリカ戦、ベンチで見ていて悔しかったろう」。実体験と重なるせりふを相手指揮官から言われる場面もありました。番組関係者によると、広瀬さんは「自分の経験があったから、浜畑がどう悔しいのかが分かる。あの経験をした自分だから、この役をやれと言われたのだと思う」と話しているそうです。「逃げて負けるのは死ぬより嫌や」。せりふの数々からトップアスリートの自意識がリアルに感じられ、この人ならではの浜畑像が生き生きとありました。

TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」の広瀬俊朗(C)TBS
TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」の広瀬俊朗(C)TBS
TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」の広瀬俊朗(C)TBS
TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」の広瀬俊朗(C)TBS

最終回の大詰めは、あと1トライで逆転という局面で右ヒザを大負傷。言葉を失う仲間たちの元へ立ち上がり「おい、行くぞ」。この人があきらめない限り大丈夫なのだと思わせる力が“精神的支柱”であり、にじみ出るオーラは演技力うんぬんじゃないんですよね。ラストは、十字靱帯(じんたい)をねじ切らせながらパスしたボールを次世代のエース、七尾(真栄田郷敦)がトライ。文字通り、ドラマのような結末でした。

ドラマは終了しましたが、ラグビーW杯日本大会を生中継するNHKBS1の解説者として再びテレビに登場。20日には開幕戦「日本対ロシア」を実況解説したほか、海外勢のカードのスタジオ解説などで日々大会を盛り上げています。

ネット上も「浜畑が解説!」と大いに沸き、「分かりやすい」「視点が深い」「さすが浜畑」と、解説力も話題になっています。実際、あおるようなオーバーな表現がなく、戦術から選手のメンタリティーまで、元日本代表キャプテンの冷静でクレバーな視点が広々。試合前には「あー楽しみですね。たまらんっす」みたいなチャーミングな一面も見せ、競技の魅力が伝わってきます。

TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」の広瀬俊朗(C)TBS
TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」の広瀬俊朗(C)TBS

日本ラグビー界の発展のため、俳優業に解説に、万能すぎる大活躍。関係者によると、若者から「自分もラグビーやってみたいです」と声を掛けられる機会も増え、ラグビー熱の高まりを喜んでいるそうです。30日からは「ノーサイド・ゲーム」のディレクターズカット版も配信(動画配信サービス「Paravi」)。各ドラマ賞周辺からは「新人賞は37歳広瀬でいい」との声も聞こえてくるなど、活躍はまだまだ続きそうです。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)