昨年3月に死去した俳優蟹江敬三さん(享年69)の長男で俳優の蟹江一平(38)が、命日にあたる30日から、テレビ東京系経済番組「未来世紀ジパング」(月曜午後10時)のナレーターを務めることが24日、分かった。レギュラーとしてナレーションをするのは初めて。

 蟹江さんは、02年から同局の経済番組「ガイアの夜明け」のナレーターを亡くなるまで12年間務めた。一平は「実は、父が亡くなった後、『ガイアの夜明け』のナレーションをやりたくて、スタジオに押し掛けました」という。「あの番組は父子のコミュニケーションツールでした。実家にあまり帰らない僕は、その声の調子で父が元気かどうか確認していました。幼いころから父のナレーションが好きでした。家では無口でしたから、普段聞けない声をテレビなら独占できた」と振り返った。同じ番組ではないが、ナレーションという仕事で父の思いをたどる夢をかなえた。

 俳優業を始めて15年たった。蟹江さんは病床で、一平の年収を聞いて「情けないな」と苦笑していたという。「このまま終わっていいのかと、自分の心に大きな炎がたきつけられました。今まで、武骨で無口な父のイメージを守ろうと自分を封印していたけど“新蟹江一平”が生まれます」。

 蟹江さんから演技などについて指導されたことはなかった。「何も教えてくれず感謝です。売れない15年は父が残した財産。ハングリーになれた。僕なりのナレーションをしたい」。

 同局は一平の起用について「下積みの苦労を経験した心に入る優しい声」が決め手になったとしている。【中野由喜】