北野武監督(68)の新作映画「龍三と七人の子分たち」が25日、全国246スクリーンで封切られた。北野作品で過去最大の公開規模。都内で行われた初日舞台あいさつでは「日本の役者はやっぱりうまい」と主演の藤竜也(73)をはじめとした個性派俳優たちの演技を絶賛した。

 今回は久しぶりのコメディー映画。北野監督は締めのあいさつで約2分、ジョークを一切交えず、作品への思いを切々と語った。

 「撮っている時に、ちょっとショックだったのは、自分はコメディアンなんですけど、コメディアンを並べて撮ったら、かなり失敗した作品になる。コメディアンが目の前の客の笑わせにかかって楽屋受けしたり、ダジャレで済ませたりするような映画になることに気がついた。皆さんの芝居と設定がしっかりして、そのズレで笑いを取ることができなくなってしまう」

 漫談をやっていた頃のネタをもとにした小説「ヤクザ名球会」をベースに、年老いた元ヤクザが元暴走族が仕切る町の悪の組織に戦いを挑む姿を描いた。軽妙な会話劇ながら、人間のこまやかな感情も盛り込んだ。

 近藤正臣(73)から「(撮影中に)監督は他の場所にいる」と言われ、中尾彬(72)からも「現場に来ない。ヨーイ、スタートもOKも言わない」と暴露されると、「ベテランの役者さんばかりで演技をつける必要がない。端で(モニターの)テレビを見ているだけでいい」と切り返した。

 撮影前から準備も入念だった。会話劇のテンポを理解してもらうため、初めて台本の読み合わせを行った。作り込んだ笑いを映画として成立させた時、コメディアンよりも演技派俳優の方がはまったという手応えを得たが、複雑な思いも抱いたようだ。それでも「日本の役者はやっぱりうまい。普段お笑いをやったことがない人がこれだけ笑いを取るのは大したもの」と笑みを浮かべながら、その演技力をたたえた。

 公開初日時点での上映スクリーン数は、225スクリーンだった12年公開の前作「アウトレイジ ビヨンド」を上回る246。興行関係者からも大きな期待を寄せられている。【村上幸将】