20日に自殺したザ・ワイルドワンズのリーダー加瀬邦彦さん(享年74)の葬儀・告別式が28日、東京・護国寺の桂昌殿でしめやかに営まれた。ザ・タイガースの岸部一徳、瞳みのる、森本太郎ら音楽関係者やファンら約380人が参列した。

 加瀬さんにギターを教え、グループの名付け親でもある加山雄三(78)は仕事で参列できなかったが、ボイスメッセージを届けた。加瀬さんのことを「弟分」と呼びかけた後で、今月25日に水戸市で行った公演で、故人を悼んで「旅人よ」を全員で合唱した音声を流した。同曲はザ・ワイルドワンズがコーラス参加しており、「皆さん、一緒に『旅人よ』を歌ってください。天国に届くように。加瀬、よく聞くんだぞう。音楽はみんなの心が1つになるんだ」。加山の呼びかけに応え、式場の内外で歌声が響き渡った。

 弔辞では3人があいさつに立った。最初に友人2人が、06年にグループ初の武道館公演を行った際、公演の約1週間前に体調を崩して食事が取れなくなっていたことや、「お世話になった世の中への恩返し」だとして、老人ホーム経営を志していたことを打ち明けた。

 3人目は加瀬さんが仲人を務め、グループでベースを担当する島英二(67)。加瀬さんは、昨年2月に下咽頭がんが判明し、同3月に声帯の摘出手術をした。「最後に会ったのは亡くなる5日前。その時に『検査で良くないことがあった』と話していましたね。苦しかったでしょう。それで決めてしまって…。そうだとしたら悔しい、残念です」と、自ら命を絶った恩人との惜別に声を振り絞った。

 加瀬さんが66年にザ・ワイルドワンズを結成したのは、ザ・ビートルズに憧れ、“和製ビートルズ”を目指したからだった。遺体が自宅で発見されたのが、元メンバー、ポール・マッカートニーの日本公演初日の21日。そして、この日はポールが49年ぶりに日本武道館に立つ日だ。くしくも、ザ・ワイルドワンズの誕生と加瀬さんの旅立ちの日に、憧れだったビートルズが深く関わっている。

 加瀬さんの魂は、武道館へ寄り道をしてライブを楽しんでから天に向かうに違いない。