カンヌ映画祭のメーン会場・パレ内のプレスルームで、この原稿を書いている。ただ今、20日午後10時半を回ったところ。日本との時差は7時間ある。

 先ほど、台湾の巨匠ホウ・シャオシェン監督8年ぶりの新作となる台湾中国の合作映画「黒衣の刺客(邦題)」(今秋公開)のプレス試写を見てきた。上映された劇場・ドビュッシーは、約1000席がほぼ埋まった。同監督の新作への、世界各国メディアの期待感の表れだろう。

 そして今、約2300席を誇る最大の劇場グラン・テアトル・リュミエールでは、4回目のコンペティション部門出品で功労賞「ゴールデンコーチ賞」を受賞した、中国のジャ・ジャンクー監督の新作となる中国、日本、フランスの合作映画「山河故人(原題)」の公式上映が行われている。上映終了は深夜0時(日本時間午前7時)過ぎと遅いが、カンヌの夜は、そこからが本番だ。

 深夜まで映画を見た観客の多くが、上映終了後、パレ周辺に多数あるレストラン、バーなどに駆け込み、映画談義に花を咲かせる。深夜0時を回っても、分厚いステーキなど重いものをガンガン食べ、酒を飲みつつ、機関銃のように見終わったばかりの映画の感想を言い合い、盛り上がっている。

 パレ周辺に広がるビーチにも、海にすぐ出て行けるような距離に大きなレストランが点在し、映画関係者主催のパーティーが連日連夜、行われている。大音量で音楽をガンガン鳴らし、みんなで踊り、踊り疲れたら酒を飲みつつ、映画を語る。

 我々メディアにとっても、公式上映後に俳優や監督に感想などを聞く取材こそ本番であり、深夜に上映が終われば、そこからが勝負の時間帯となる。17日(日本時間18日)に行われた、ある視点部門出品作「岸辺の旅」(黒沢清監督、今週公開)の公式上映終了も、深夜0時を回った。主演の深津絵里(42)浅野忠信(41)の囲み取材は、もちろん上映終了後に行われた。

 先日、取材を終え、映画関係者と試写の感想などを語り合っていて気付いたら、時計の針は深夜3時を回っていた。ホテルへの帰り道を急ぎ足で歩いていたら、足元に何か白いものが走っていた。ウミネコだった。地中海に面したカンヌは、街中でもウミネコが日常的に飛んでいる。深夜で人の行き来が多少、減ったので地上に降りたのだろうが、泥酔した中年オヤジが映画を見終わった感動のあまりか叫ぶと、ウミネコはヒラリと飛び上がり、街灯の上に留まると、ビックリしたような目でオヤジと、その横にいた記者を見詰めていた。

 そうこうしているうちに連日、午前8時半からプレス試写の1回目がが始まる。その繰り返しで、気付いたらカンヌ映画祭も、あっという間に8日目が終わろうとしている。取材と試写をひたすら詰め込む中、削ることができるのは睡眠時間だけのようだ。プレスルームには、まだまだたくさんの記者やカメラマン、テレビクルーが詰めていて、原稿を書いたり、打ち合わせをしている。今日も、夜はまだまだ終わりそうもない。(村上幸将)