大腸がんで5月28日に亡くなった俳優今井雅之さん(享年54)がライフワークにしていた主演舞台「THE WINDS OF GOD」が同31日、沖縄市民会館で全国ツアー最終公演を迎えた。代役を務めた重松隆志(41)ら出演者は、今井さんの思いを受け継ぎ熱演した。

 主役は今井さんだった。カーテンコール。重松がスタッフを紹介した後、最後に、天国に届けとばかりに大声で、手を広げ、上を向いて叫んだ。

 「とんでもない作品を生み出し、演出、脚本、主演を27年間務めた今井雅之」

 会場は総立ちで、拍手と指笛が響き渡った。その後、ファンから今井さんの写真を渡された。中央に今井さんの写真を置き、出演者が一礼。会場から拍手が響き続けた。

 魂は、受け継がれている。重松は「今日は今井雅之さんと一緒に公演に立てた気がします。『THE WINDS OF GOD』は今井雅之そのものであり今井雅之の魂の作品です。この作品は永遠に続きます。今井さんの魂も」と語った。関係者によると今井さんの楽屋は、メーク道具などがそのまま用意されている。「今までと変わらず、今井さんの思いを継ぐ」との思いが込められている。

 第2次大戦で激戦地だった沖縄は今井さんにとって、特別な思いの地だった。同作はお笑いコンビが交通事故でタイムスリップし、日本の特攻隊になる物語。今井さんは08年の沖縄公演の際、ブログにこうつづった。「沖縄を死守しようとした、たくさんの特攻機が、今もなお、海の中に沈んでいます。この地で、この舞台をやることは、今はもう、自分にとっては“義務”というよりかは、何か人生の“任務”みたいなものを感じやす」。

 だから今回の公演も最後まで復帰を諦めなかった。今井さんは4月30日に末期がんを公表し、舞台降板を発表。生活は車椅子。復帰は厳しかったが「沖縄公演だけは、役者として舞台に戻りたい」と話していた。

 重松は、同作の継続に強い決意を示した。まだ、具体的な内容についての話し合いは行われていないとした上で「必ず『作品はどういう形であれ残していこう』と話そうと思っている」と明かした。【上田悠太】

 ◆「THE WINDS OF GOD」 今井さんが子供のころから興味があった神風特攻隊について取材を重ね原作・脚本・主演を務めた舞台。井戸田潤らが出演。88年初演。91年以降ほぼ毎年公演。ニューヨークやロンドンなど海外でも上演。05年に山口智充主演でテレビ朝日系でドラマ化され95、06年と2度映画化。95年に小説も出版。