7月期の夏ドラマが出そろった。銀行改革、農村活性、病児保育、外資系ホテル、リスクマネジメント、平面ガエルなど、専門性の高いお仕事もの一色となる中、唯一の「王道ラブストーリー」で原点回帰を試みた月9「恋仲」が初回視聴率9・8%という過去最低の発進となったことも話題だ。「勝手にドラマ評」第23弾。単なるドラマおたくの立場から、今回も勝手な好みであれこれ言い、勝手な好みで★をつけてみた。(シリーズものは除く)

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◆「恋仲」(フジテレビ、月曜9時)福士蒼汰/本田翼/野村周平

★★

 「月9は旬の俳優でキラキラしたラブストーリーを」。フジ亀山社長の至上命令に、恋愛ドラマあるあるをかき集めた感じだった。自転車2人乗り、2人でひとつのイヤホン、相合い傘、花火大会でキス、敬礼でバイバイ、水しぶきでじゃれ合うスローモーション。脚本家もプロデューサーも33歳。亀山氏世代がマネできない若いオリジナリティーで波風立ててほしかった。テーマは三角関係で「僕たちのどちらかが彼女と結婚するまでの物語」。対照的な男の魅力の胸キュンが描かれるのかと思ったら、2話で片方がヒールと判明し、ストーカーから逃げる話みたいに変容。3人ともぐずぐず暗いオーラで、水しぶき以外にどうキラキラさせるのか見守りたい。

◆「ホテルコンシェルジュ」(TBS、火曜10時)西内まりや/三浦翔平

★★★★

 ホテルを舞台にした人間交差点ものは大好きなジャンル。迎える側の主人公を好きになれるかがポイントで、この西内まりやは私には当たり。壊れたスーツケースを迷わず抱え上げて爆走する開始5分のガッツに、一発でこの人を好きになった。1話は、世間体で自分を見失ったセレブ女性と、働きづめで恋人を見失いそうな貧乏男子。2つの人生が後味のいいストーリーになっていて、主人公にちゃんと成長があるのもすがすがしかった。画面から一流感が漂わない、こんな過剰サービスあるわけないなどツッコミどころが満載だが、すでにこの主人公とチームワークを好きになっているので気にならない。「高原へいらっしゃい」「HOTEL」のDNAは、そこそこあると思う。

◆「HEAT」(フジテレビ、火曜10時)AKIRA/栗山千明

★★

 不動産会社の敏腕ビジネスマンが、土地買収目的で地元の消防団に潜り込んで奮闘。高層ビルで火災→実は訓練だった→外国人との英会話ビジネス→会員制のプールで上半身ヌード→ワイン&お姫様抱っこ…。何のドラマか分からないAKIRAのPVが延々と続く初回2時間スペシャル。街の消防団を負け犬呼ばわりしたり、消防署にけんかを売ったり。主人公の魅力がよく分からない上、突然「大事なのは過去じゃなくて今だ」とかアツい説教を初めたりと、シナリオが散らかってしまって話がよく分からなかった。視聴率は3・4%に。同じ主人公で映画化も決まっている。大きなスクリーンにかけるなら、きちんと主人公の魅力を練り直さないとしんどいのでは。

◆「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ、水曜10時)杏/上川隆也

★★★★

 1年ぶりのシリーズ第2弾。すごい安定感。パワハラ支店長に行員が一斉反撃とか、結婚詐欺が背景にある不正とか、前作と似たような話の運びなのは「支店を回る臨店班」という限られた行動範囲を考えると仕方ないのかも。それでも、花咲舞(杏)と相馬(上川隆也)の名コンビには待ってましたの華があり、2人がほじくり出す「現金待ったなし」の人間模様は見ごたえがある。2話で、相馬のかつての部下が登場したのがいい転機に。優秀な融資マンだった相馬の人となりがよく分かり、なんだかんだ花咲を支える根拠と魅力が前作より増した。不法侵入して机荒らしとか、客にビンタとか、荒唐無稽のエスカレートはいかにもパート2っぽいが、1話完結の勧善懲悪は安心して楽しめる。

◆「リスクの神様」(フジテレビ、水曜10時)堤真一/戸田恵梨香

★★★★

 時事的にもタイムリーな「危機管理」をテーマに、達人の活躍。「危機に直面したら無傷ではいられない。守れるものはひとつ」。何を本丸とし、何をあきらめるかの人間模様。主人公は「神様」というほどでもないけれど、清濁併せのむドライな馬力で「危機こそチャンス」を実現。降格人事でやってきた戸田恵梨香が勝ち気でガンガン学び、反発しながらいいコンビ。田中泯、吉田鋼太郎、小日向文世らNHK土曜ドラマみたいな豪華な布陣。いっそ「ハゲタカ」や「外事警察」みたいな超社会派テンションにした方が、裏の「花咲舞」の危機管理と違いが出たかも。何か暗い過去を抱えているという無用の設定がかったるいが、オリジナルのきちんとした挑戦に好感。

◆「37.5℃の涙」(TBS、木曜9時)蓮佛美沙子/成宮寛貴

★★

 保育所に通う子供が体調を崩した時、仕事を休めない親の代わりに世話をする病児保育士の奮闘を描く。職場の無理解、ママ任せの家族。働く女性を取り巻く環境は過酷である上、ドラマからも「子供より大事なものがあるんですか」と愚問を突き付けられてしんどい。自分の子供時代とは激変している保育の現場は新鮮だが、ギスギスと余裕のないキャリアウーマンとか、子供の手作り金メダルとか、見せ方が型通りで、病児保育でなくてもいい印象。おどおどと人に気を使わせるヒロイン像や、「私は親の愛情を知らないから分からなくて」「お弁当作ってもらったことないから分からなくて」というアプローチで世渡りする人は苦手なので脱落。

◆「エイジハラスメント」(テレビ朝日、木曜9時)武井咲/稲森いずみ

★★

 日本企業に根強く残る、女性社員への年齢差別(エイジハラスメント)と、立ち向かう新入社員のバトル。「お茶は若い子がいれろ」とか、「おばさんまだ辞めてないの」とか、内館牧子氏の描く世界があまりに古くて、コンプライアンス時代のハラスメントに何も参考にならない独自路線。おばさんは年齢で差別され、若い子はセクハラされる。そういう構図を武井咲ちゃんが「五寸クギぶちこむぞ」のコメディータッチで成敗する話かと思ったら、話の大半は女同士の足の引っ張り合いで疲れる。主人公の初仕事は40人分のお茶いれ。私なら、とりあえずいれてみる。

◆「探偵の探偵」(フジテレビ、木曜10時)北川景子/川口春奈

★★

 タフで暗めの女性ヒーローもの。篠原涼子の「アンフェア」や、竹内結子の「ストロベリーナイト」の路線だが、テンポの悪さは夏ドラマの中でも群を抜く。妹の死に関わった悪徳探偵を捜すため、姉自らが探偵となる。設定は面白いし原作小説も売れ筋なのだけれど、同じ回想シーンと悲しみにふけるシーンの繰り返しで目の前の依頼が前へ進まず、スゴ腕が展開しない。2話も人物紹介と妹の手紙の回想で足踏み。回想にスリルはないし、見どころのアクションが唐突な印象に。北川景子ちゃんのドヤ顔だけで作品をもたせようとするのは雑に感じる。

◆「表参道高校合唱部!」(TBS、金曜10時)芳根京子ほか

★★★★★

 ある楽譜を探しに上京した合唱大好き女子高生が、廃部寸前の合唱部で部員集め。汗と涙とハーモニーの青春ストーリーが直球で来たので、勢いで見ていたらこのヒロインのファンになった。いじめやスクールカーストが常態化する学園カルチャーに、仲間外れが許されない合唱カルチャーが投げ込まれた化学反応。人の声を聞き分ける確かさに主人公のまごころがにじむし「この人はどんな声で歌うんだろう」「一緒に歌えばその人が分かる」というストレートな動機もいい。人の心を動かす歌は人それぞれで、5人で歌うジュディマリの「Over Drive」に泣けた。2話はベタな「翼をください」でカチンときたけれど、新人女優の抜てき&オリジナル脚本の挑戦は応援したい。へこむ前に10秒ジャンプは、やってみたら意外と効果があった。

◆「民王」(テレビ朝日、金曜11時15分)遠藤憲一/菅田将暉

★★★★★

 腹抱えて笑った。原作池井戸潤。肉食ギラギラな総理大臣と、草食系の息子の心と体がある日突然入れ替わる。パンツ一丁でめそめそ泣く遠藤憲一を、「その顔でめそめそ泣くなーッ」と菅田将暉がフルスイングで張り倒す爆笑コンビネーション。この2人は現在NHKでハートフルな親子役を演じており、すごい振り幅に笑ってしまう。閣僚失言に関する総理の号泣会見がまさかの説得力で国民にウケ、銀行の面接試験に行った息子は、まさかの銀行糾弾大演説でバイト先を救う。真逆の手法が突破口となる入り替わりドラマの楽しさが大いにあって、派手な結果オーライが痛快。ひと目で池井戸作品と分かる「東京第一銀行」のお得感。テンポのいい脚本、キレのいい演出、うまい俳優、ビンゴな放送枠。

◆「ど根性ガエル」(日本テレビ、土曜9時)松山ケンイチ/(声)満島ひかり

★★★

 「Q10」「妖怪人間ベム」など、人間ではないものを通した人間ドラマで定評のあるプロデューサー。平面ガエルの今回は、30歳になったヒロシが相変わらず東京下町で底抜けに生きていて笑った。ヒロシは無職、京子ちゃんはバツイチ、ピョン吉はTシャツからはがれそう。ど根性だけでは突破できない現実が身に染みる。満島ひかりのピョン吉が抜群で「かあちゃん!」の声が懐かしい。逆に、実写のヒロシが野沢雅子のテンションに寄せすぎて、登場人物たちとチューニングが合わないうっとうしい味わい。夜明けの隅田川を「根性、根性、ど根性ー!」と爆走するシーンはこの夏の名場面。ピョン吉に迫る死の影、別れの予感。でも、アニメでは糸がほつれてTシャツごと消滅しても死ななかったカエルである。ど根性で乗り越えてほしいでやんす。

◆「ナポレオンの村」(TBS、日曜9時)唐沢寿明/麻生久美子/沢村一樹

★★★★

 都庁のスーパー公務員が限界集落を立て直し。「不可能はない」のナポレオンを敬愛し、困難に直面するほど燃える行動派主人公を唐沢寿明がはつらつと演じる。「よし、働くぞー」。まず行動するタイプは大好き。働きたくない役所の妨害、文句先行型の村人たち。陰気くさい対立構造はありつつ、田んぼと森と清流のジブリみたいな美しい風景に、見ていて広々とした気持ちになる。2話は、都会から来たパパと姉妹、入院している母親、病院に行く道で迷子という、まんま「トトロ」。夜空に一斉にランタンの光とか、ホタルが舞うとか、狙いすぎのファンタジーが気恥ずかしいけれど、ハッピーエンドの作風には合う。家族で安心して見られる日曜劇場の品質保証。

◆「デスノート」(日本テレビ、日曜10時半)窪田正孝/山崎賢人

★★★

 若手演技派、窪田正孝の俳優力がここでも画面から匂い立つ。06年映画版で藤原竜也が演じた主人公キラがA面なら、窪田版はB面という感じ。いじめられっ子のアイドルおたくというトンデモ新設定のもと、デスノートを手にして自我が覚醒していく大学生をデリケートに描く。オリジナル版は、選ばれた天才がゆがんだ正義感と犯罪センスを暴走させる大胆不敵な魅力だった。もはや好みの問題で、個人的にはオリジナル派。キラと、彼を追い詰めるもう1人の天才・L(松山ケンイチ)のプライドの激突、頭脳戦にゾクゾクしたので、キラに重点を置いてLがスカスカな今作はバランスが悪く見える。「計画が読まれた」とびびって泣いたり、死神リュークを頼ったりするキラを、のび太に見せない窪田君が端正。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)