現役医師の作家久坂部羊氏(60)の小説2作品が、NHKとフジテレビ系で、今年10月スタートの連続ドラマとして映像化される。NHKは「破裂」(土曜午後10時)、フジテレビは「無痛~診える眼~」(水曜午後10時)。ともに医療の現場や舞台裏を描いた作品。注目の作家に話を聞いた。

 同じクールに放送局をまたいで、同じ原作者の作品がドラマになるのは、最近では池井戸潤氏の例があったが異例のことだ。「破裂」(幻冬舎文庫)は、老化した心臓が若返る夢の治療法と国家的陰謀を、「無痛」(幻冬舎文庫)は、外見の兆候だけで健康状態や病気の進行状況が分かる医師が主人公。久坂部氏は「2つ同時というのはたまたまです。今までも、原作のドラマ化の話はいくつもあったんですが、実現しなかった。実現しないのが普通なんだなと思っていたのでうれしいですね」と話す。制作側には「原作を好きに変えていいですよ」と伝えているという。「面白くしてくださいということだけです」。

 父親が医師だったこともあって医師になったが、高校生のころから作家になる夢も持っていた。医師と作家、理系と文系。両極に思えるが、「医学は理系の頭で勉強しますが、実際の仕事は患者さんの気持ちを扱う文系なんです」と言う。

 若いころ好きだったのは、ドストエフスキー、カフカ、三島由紀夫、大江健三郎といった純文学。ドラマ化されるようなエンターテインメント性の高い大衆小説には「全然興味がなかった」。執筆作も純文学だったが、なかなか芽が出なかった。40歳を過ぎたころ、高村薫氏、桐野夏生氏、東野圭吾氏、宮部みゆき氏らの作品を読み、純文学よりはるかに面白いと衝撃を受けた。社会や現実、人間性に迫った作品にひかれ、方向転換した。

 文芸誌に応募して何度か受賞候補になったが、落選が続いた。「山田詠美さんには『こんなに面白い題材で、よくこんなにつまらない小説が書けるものだ』とボロクソに言われました。今となっては笑い話ですけど、当時は怒髪天を衝(つ)く、という感じです」と笑う。

 転機は、編集者との出会いや周囲のアドバイスだった。「自分が面白いと思っていることより、雑談の中の『そこが面白いですよ』と言ってもらった。自分の中にあるけど、気付いてないものに目を開かせてもらった」。

 アイデアは、ランニングの時に湧くことが多い。決まったコースを走り、これまでの作品や登場人物を思い浮かべる。今後のテーマは「企業秘密です」と言うが、「実際に起こった事件を題材に、よりドラマチックにするような小説、できるだけハラハラドキドキが続くような大きな作品を書きたい」と意欲的だ。【小林千穂】

 ◆久坂部羊(くさかべ・よう)本名・久家義之。1955年(昭30)7月3日、大阪府生まれ。大阪大医学部卒業。03年「廃用身」でデビュー。外科、麻酔科医師として勤務後、サウジアラビア、オーストリア、パプアニューギニアの在外公館で医務官。当時の経験は本名名義の著書「大使館なんかいらない」などになった。昨年「悪医」で日本医療小説大賞。現在は健診センターで非常勤医師、大阪人間科学大で講師を務める。家族は妻と1男2女。血液型AB。

 ◆「破裂」 医師の香村(椎名桔平)は、老化した心臓を若返らせる夢の治療法を見つけるが、心臓が破裂する副作用があった。そこに目を付けたのが、天才官僚の佐久間(滝藤賢一)。寝たきりの高齢者を減らすため、治療法を利用しようとたくらむ。そして被験者1号は国民的俳優の倉木(仲代達矢)と決まった。

 ◆「無痛~診える眼~」 外見から病気の進行状態が分かる医師、為頼英介(西島秀俊)が、観察眼と経験で刑事の早瀬順一郎(伊藤淳史)とタッグを組み事件を解決に導く。医療制度の矛盾、心神喪失者、心神耗弱者の罪を罰しない、もしくは軽減することを定めた刑法39条の是非も問う。共演は石橋杏奈、伊藤英明ら。