長渕剛(58)が23日、静岡県富士宮市で開催した「10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」を成功させた。前日午後9時から、この日早朝まで、約9時間半で44曲を熱唱した。野外ステージ後方に位置する富士山の後ろから昇る朝日に向かって何度も叫び、観客10万人と感動を分かち合った。

 富士山の稜線(りょうせん)が浮かび上がり始めた午前5時20分すぎ、長渕は「富士の国」を歌い始めた。今回のライブのために作った曲だ。歌いながら10万人に向かって叫んだ。「朝日を引きずり出すぞ! みんな、ありったけの声を出せ! 歌うぞーっ!」。拳を突き上げて鼓舞する長渕に、観客は「ウオーッ」という雄たけびで応じた。すると、富士山中腹にたれ込めていた雲が左右に流れ始めた。朝焼けの光が山頂左側を照らし出す。昇り始めた太陽に向かって振り返った長渕が叫んだ。「見ろ! 富士の国に日が昇ったぞ!」。

 東京ドーム7個分に匹敵する会場の興奮は最高潮に達した。あちこちで日の丸の旗が振られ、「剛コール」が響き渡った。長渕はステージを下り、最前列のファンに頭を触らせたり、ハイタッチや握手を交わし続けた。「みんなを幸せにしてくれ! 俺を幸せにしてくれ! 争いのない国にしてくれっ!!」。「富士の国」を歌い続けながら、昇ったばかりの朝日と富士山に叫んだ。

 歌唱は30分以上に及んだ。「俺たちの本当の思いが1つになった。子供たちに幸せで立派な国ができるぞ」。呼びかけに観客も大声援で応えた。

 前代未聞のライブを思い立ったのは2年前。「生きる意味、生きる感覚をみんなと共有したい」「震災などで傷ついた日本人としての自尊心と連帯を呼び起こしたい」。願いをかなえ、思いを共有できる場所は、日本の象徴、富士山しか考えられなかった。

 疲労は微塵(みじん)も感じさせなかった。ライブが始まってから最後まで、楽しくて仕方がないというような笑みを絶やさなかった。午前3時すぎには、オープンカーに乗り、センターステージに向かう派手な演出でファンを喜ばせた。

 強い思いが実現したこの日、何度か男泣きした。ライブが始まって2時間後、「お前たちが主役だ」と叫んで涙を流した。コンサートを締めくくった「明日へ続く道」を歌い終えた後、「同じ時代に生まれてくれたことに感謝している」と呼びかけ、潤む目を手で拭った。

 長渕はいつも言う。「次の山を超えていくぞ」。富士山麓で悲願のライブを成功させた今、次なる夢が何かは分からない。ただ、これからも歌い続ける。【松本久】