近年、海外の小説や映画のジャンルでヤングアダルト(YA)をターゲットとした「ディストピア」作品を多く見かけるようになった。

 ディストピアとは、SFというジャンルの中でも空想的な未来で否定的な要素を持つ社会が描かれた作品のこと。「ハンガー・ゲーム」(12)、「ダイバージェント」(14)、「メイズランナー」(14)などがそうで、未来のゆがんだ世界で子供たちが大人の抑圧と闘う中、成長する物語。これらはすべて小説から映画化されたもので続編が作られるほどの人気ぶり。なぜ今ディストピアものが、若者の間で人気なのだろうか。

 大規模な自然災害や戦争、超越的な事象によって世の中や文明が滅んだ後の世界を描いた終末ものは、昔から書かれてきた。近年注目を集め始めた背景には、社会の根底にある不安が関係しているよう。アメリカのYA小説作家、トッド・ミシェル氏は「現在我々は無意識的に汚染や消費過剰によって地球が破壊されていくのを感じている。干ばつや洪水、巨大台風といった異常気象や、世界各地で広がる政府への不安も感じる中、子供たちは特にこれらに敏感だ」と語った。自分たちの身近な題材を扱った小説だからこそ若者たちはひかれているのかもしれない。

 また、多くのディストピア作品は同年代の主人公が独裁的な国家に反発し、ゆがんだ大人社会の試練に立ち向かう姿が描かれている。敷かれた道を単純に従うのではなく、新たな道を自分たちで切り開いていくキャラクターたちに共感するのだろう。現在世界中で起きている紛争やテロへの脅威を感じている若者にとって、生きるために戦ったり、大人たちの世界から自由を得るために戦ったりする主人公たちは憧れの存在のようだ。

 科学技術の普及もディストピア小説の人気の高まりに影響している。小説のテーマでは物語の登場人物が常に第三者に監視されているものがよくある。スマートフォンやタブレット、ウェアラブルデバイスの普及により人々の動向や会話は簡単にトラッキングできるようになり、現在の世界と小説の世界で共通するものがある。また、技術の進化でこれらの小説の映画化やドラマ化が盛んになり、小説の中の世界がよりリアルに見えるところも読者をひきつけているようだ。

 同年代の主人公たちがもがき苦しみながらも、自身の力を信じ挑戦し続ける姿に自分を重ね合わせ、共感を持つ若い読者。正しい道を見出し主人公と成長できるからこそ、これらの小説は人気を誇っているといえる。【ハリウッドニュース編集部】